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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 化け物。

 うつくしい黄金色の髪と、すみれ色のひとみを持つ、三人の化け物。その中で、一番年若い少女。子は色が濃い方の特徴を受け継ぐと云うが、彼らは欠片も『御館様』に似ていない。付け加えるならば、この国のいかなる人間にも似ていない。

 彫りの深い顔。真白い肌。発音しづらい名前。天上の天使に祝福されたような、地獄の悪魔に呪われたような、うつくしい目鼻立ち。

 その中でも、彼女は、長い髪が花弁のような、冠のような、やたらめったら、うつくしい少女。

 __四角い硝子の箱の中、狂ったように咲いた金色の薔薇。

 藤堂直は、あの時目に焼き付いた光景よりうつくしいものを、見たことがない。
 劇場のステエジの上、歌い、踊っていた、女帝、と呼ばれた女。
 青いひとみの、天使のようにきよらかな青年が、彼女の腕をつかみ、そして。
 嗚呼しかし、それも結局、自らのこころに詭弁を弄しているだけなのだ。結局、あれを手折ったのは。

 あの、うつくしい金の薔薇を、手折ったのは__、

「藤堂さん」

 心地の良い声が、もの思いを鋭く断ち切った。

「湯が沸いたので、お茶を淹れますね」

 さらりさらりと髪を揺らし、金城がべこべこに凹んだ薬缶をストオブから持ち上げて見せる。
 藤堂は黙って、深く頷いた。
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