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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 猟奇事件に浮足立つ官舎を出て、露崎はそのまま帝都の外れに向かって歩き出す。

 署の車を借りられるほど階級は高くない。辻馬車を捕まえる気分でもない。ならばからだを鍛えるつもりで歩いてゆくのもよかろうと思う。

 紺色の制服のまま、くすんだ墨色の髪をなびかせて、露崎は大通りを進んでゆく。あちこちの店やら、辻馬車の御者やら、道ゆくひとびとやらからかかる声には、逐一応えた。

 見えるところは、今日もおおむね平和。

 それは概ね間違ってはいない。けれどもこの都の影は濃い。日を開けず、目を覆いたくなるような事件が起こる。大人も子どもも女も男も、等しく誰かの手によって死ぬ。

 そもそも己は都の警備や要人警護が主な仕事であって、猟奇事件を追うことは部署違い、管轄違いだ。それでも一定数そういう事件に関わらざるを得ないのは、上官の云うところの『あれ』のためだった。

 半刻ほど歩き続けると、煉瓦造りのうつくしい塔が見えてくる。さして高くはないけれども、大きな時計を頂に冠した時計塔だ。建って数十年、少しばかりすすけた赤煉瓦。

 西園寺理央。

 そう名付けられている少女の住処だった。

 否、牢獄だ。いつでも外に出ることは出来るが、逃げ出すことは決して許されない。世界中探しても、これほど自由で、不自由な牢獄もあるまい。

 曇天の下、巨大な黒い秒針を動かす時計を見上げ、それから塔の側面を這う螺旋階段を上ってゆく。それなりに長い間、風雨に晒されているはずなのに、錆ひとつできていない。黒々と冷たい階段から、かつん、かつん、冷えた音がする。

 塔の天辺に、扉がある。

 これまた黒々と塗られており、棘の多い弦薔薇が彫りこまれていた。そのうつくしさに見惚れるより先に、異様な雰囲気にぞっと背筋を凍らせられる。そんな薔薇だ。たとえ、中に秘された少女の存在を知らぬ物好きが、この階段を上ったとしても、これを見れば一目散に逃げ出してしまうだろう。

 この中にいるものを、守っているようにも、閉じ込めているようにも、見えますね。

 以前そう思ったことをこの部屋の住人に漏らしたことがあるが、住人はつんと顎を持ち上げて、うつくしい顔を歪め、嫌そうな表情をした。いばら姫なんて、柄じゃあないね。

 真鍮のノブを回し、露崎は勝手に扉を開ける。取り付けられた小さなドアベルがちりり、ちりりと鳴った。
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