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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 時計塔の中にあるせいか、まるい、まあるい部屋である。

 やたらめったら複雑な模様の絨毯に、濃い紅色の壁、奥には黒い天蓋のついた寝台、申し訳程度の小さな窓、その傍にこれまた紅色の寝椅子。床には、フリルやら、レエスやら、リボンやらが広がっている。大抵は紅か黒か金。薔薇の花の意匠。それを、私の好きなものだ、と、彼女のくちから聞いたことはない。けれど、来るたびに種類が増えているから、きっと、好きなんだろう。と、露崎は思う。こんな子でも、好きなもののひとつやふたつ、あるんですか。それは、意外ですらあった。

 しかし、品のある調度にも、床の布たちにも、ふと見ただけでは、目はゆかぬだろう。
 なにせ、異様なのだ。緩やかに曲がった壁に沿って置かれた棚が。

 古く重々しいそれにぎっしりと並べられている、お人形。日本人形。西洋人形。見てわかるほど古ぼけたものから、傷ひとつない新品まで。顔かたちは違うのに、いずれも着ているのは、フリルとレエスとリボンとをたっぷり使った衣装。振袖の西洋人形と、バッスル・ドレスの日本人形の間に、動物を模したあいらしいぬいぐるみが詰め込まれていることも、棚の異様さを駆り立てていた。

 露崎は、そこからひとみを素早くそらす。彼女たちが、こちらを見ている気がしてならなかった。

 そらした先。

 寝椅子の上に、薔薇の花が咲いている。

 花びらをたっぷりと重ねた、金の薔薇。

 細長い四肢を外国の貴族のような服で包み、柔らかなすみれ色の布に埋もれている彼女は、客人の顔を見ようともしない。白い指には銀の針。仕事の最中であったらしいことに気付いて、露崎は思わずびくりと身を引いた。

 この少女は、縫い物の邪魔をされることが死ぬほど嫌いだ。
 案の定、薄く端正なくちびるから漏れ出た声は恐ろしく低い。

「何の用だね、この無作法者」
「出会い頭に悪口ですか。酷いです」
「私はかわいいお人形のためにドレスを作っているところだと云うのに、邪魔をしにきた奴に丁寧に対応してやる必要がどこにあるのかね」

 つんけんとした口調でひと息に云って、彼女は露崎の顔を見た。露崎も彼女の顔を見た。
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