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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
「幾度見てもきれいな紅だね。燃える炎か宝石か、真赤な薔薇でも食べたのかい?」
「どれも食べたことないです、これ、生まれつきなの」
ふうん、とひとこと。
わかったような、わからないような。どっちでもいいのかもしれない。きれいなものをきれいだと褒め称えるのに、大いなる理由など必要としないことを、陽色は雅弥とのやり取りで知っている。
レエス編みの手袋の、ざらつく感触の向こうから、このひとの体温が伝わってきた。
それでようやく、このひとが人間であるとわかる。糸を通しているからか、本当に薄すらとした、淡い温度。
ふいに、西園寺は立ち上がり、陽色の顔を覗き込んでみせた。下から見上げると、やはりこのおひとは婀娜な顔をしている。視線が絡み合って、ようやく西園寺が、己の真赤なひとみを見つめていると気づいた。途端、陽色の頬が、ぽうと熱を持つ。
「あ、あんまり、覗きこまないでください、恥ずかしい」
「隠すことじゃないよ。君の個性だろう」
至極簡単な調子でそう云って、そのおひとはさっさと立ち上がった。
「さて君、朝食はまだだね」
「うん」
「そしたら、そこで転がっている君、この子を少し借りるよ、ええと」
そこで初めて、彼は陽色の顔をうかがうような仕草をした。陽色は滅多と積極的には名乗らぬ己の名前を、すかさずくちにした。
「ひいろ。陽色、いいます」
「そう、それじゃあ陽色、」
私に付き合ってくれたまえよ。
異国の王子のような優雅さで差し出された手を、陽色は迷わず取った。
「どれも食べたことないです、これ、生まれつきなの」
ふうん、とひとこと。
わかったような、わからないような。どっちでもいいのかもしれない。きれいなものをきれいだと褒め称えるのに、大いなる理由など必要としないことを、陽色は雅弥とのやり取りで知っている。
レエス編みの手袋の、ざらつく感触の向こうから、このひとの体温が伝わってきた。
それでようやく、このひとが人間であるとわかる。糸を通しているからか、本当に薄すらとした、淡い温度。
ふいに、西園寺は立ち上がり、陽色の顔を覗き込んでみせた。下から見上げると、やはりこのおひとは婀娜な顔をしている。視線が絡み合って、ようやく西園寺が、己の真赤なひとみを見つめていると気づいた。途端、陽色の頬が、ぽうと熱を持つ。
「あ、あんまり、覗きこまないでください、恥ずかしい」
「隠すことじゃないよ。君の個性だろう」
至極簡単な調子でそう云って、そのおひとはさっさと立ち上がった。
「さて君、朝食はまだだね」
「うん」
「そしたら、そこで転がっている君、この子を少し借りるよ、ええと」
そこで初めて、彼は陽色の顔をうかがうような仕草をした。陽色は滅多と積極的には名乗らぬ己の名前を、すかさずくちにした。
「ひいろ。陽色、いいます」
「そう、それじゃあ陽色、」
私に付き合ってくれたまえよ。
異国の王子のような優雅さで差し出された手を、陽色は迷わず取った。