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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 いささか強引に過ぎたかもしれぬ。

 西園寺はほんの少しだけ反省するふりをした。
 あなたは傍若無人すぎます、と、最近やたらとよく見る女がすかさず頭の隅でお小言を垂れる。うるさいね、と反論してから、連れ出してきた、子ども、青年、その中間をとったようなお人形、を改めて眺めた。

 カッフェの隅の席、たっぷりのクッションに痩せ細って華奢なからだを埋めるようにして、彼はおどおどしている。どう贔屓目に見ても栄養が足りておらず、酷く血色が悪い。年の頃は西園寺と同じくらいであろうが、やたらと幼く見えるのはそのせいであろう。手入れをすれば艶も出るであろう真黒い髪は酷く縺れている。うつくしい造形もこれでは幾らも活かせぬであろう。これだから審美眼のない奴は嫌いだ。
 西園寺は思わず、舌を打つ。それを何と勘違いしたものか、黒髪の男の子はからだをびくつかせた。この子はやたらとおどおどしている。ただそれは、この子のせいではない。それくらい、世間知らずと揶揄されること度々の西園寺にもわかる。

 熱い紅茶と麺麭と、栄養のつくように卵料理と野菜を幾らか注文してやる。それでもびくびくしているので、いいから堂々と座っていたまえよ、と思わず注意をしてしまう。うつくしいだけは恐ろしくうつくしい顔をふにゃふにゃと歪ませて、彼は微笑んだ、ようだった。

「なにこれ、夢みたい、です」
「私と食事をするのがかい、君、変わっているね」
「なんで、ですか、」

 すごく、きれいなのに。天女さまみたい、です。
 無垢な子どもの顔で、うっとりと見上げられた。西園寺はくちの中で言葉を濁し、真赤の視線から顔をそらした。

 折よく女給が注文したものを運んでくる。このカッフェは女給の制服が英国のメイドを模した上品なものなので、気に入っている。

 さすが客商売の専門家と云おうか、女給は一見みすぼらしい様子の少年の、滅多とない美貌に気付いたらしい。あらあらまあまあと可憐な声を漏らす。

「随分かわいらしい坊やですね、仔猫みたい」
「ふあっ」
「……君、困っているから、あまりこの子にかまわないでやってくれたまえよ」
「まあまあ、うふふ、珍しい」

 ころころと笑いながら、女給は銀の盆を抱え、去ってゆく。何が珍しいものか。いまいましい。白いエプロンの背中をにらみつけた。
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