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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第4章 柔らかな寝台と触れた熱
 緩慢な動きで、くちびるは下がってゆく。

 脇、肋、やがて臍に。陽色は暫くその腹を見遣り、ちゅうちゅうと臍に吸い付いた。先ほどのような劇的な「気持ちいい」はなくとも、薄温かな粘膜に包まれるのは、何だか不思議な感覚だ。羞恥に耐え切れなくなった西園寺がくちびるを開いたあたりで、ようやく彼は静かにくちを開いた。

「おれ、あんたのお腹から産まれたかったなあ」

 そしたら、きっと、幾分か。

 続く言葉を云わせぬように、西園寺は素早く彼の頭を己の腹に押し付けた。

 わ、だか、ひゃ、だか、とにかく間抜けな声を上げて、陽色は彼女に抱きしめられる。白い腕、白い腹、ふわりと広がる金の髪。彼女と云う檻に、囚われたように。彼女と云う揺籠に、守られるように。

「今日はやめるよ」
「へ、」
「私がやめると云ったらやめてくれるのだろう」

 西園寺は、普段と変わらぬ声でそう云った。ほんのりと火照っていた陽色の顔から、すうっと血の色が抜け落ちる。どうしたの、きにいらなかったの、へただったの、いやだったの、すてるの。

 必死に縋ってくる彼に一瞥を寄越し、西園寺は静かにため息をついた。

 君が悪いんじゃあ、ないよ。どちらかと云うと、私に問題がある。

「だから、捨てやしないよ。この行為も、悪いとは思わなかった」
「ほんとう?」
「ほんとうだよ。そもそも私は上手いか下手かを判断する基準を持っていないからね」
「え、じゃあ、もしかして、しょじょ、」
「そういう下品なことばは好かないね! ……もっとも、間違いではないが」

 陽色は何故だか表情をきらきらと輝かせた。それから、また、あまえるようにすり寄ってくる。また、と云えど、今度のこれには色事の気配がない。

 私から産まれたら、君まで化け物の仲間入りをしてしまうよ。

 云おうとして、云えなかった。喉の奥が酷く重たくて、息が苦しかった。

 指先で真黒い髪に触れてみる。その指を、細い手がつつくように撫でた。

「冷たい手だね」
「あんたは、きれいだ。すごく」
「……ふ、」

 陽色の微笑みを受け止めて、西園寺は悲しそうに笑い声をたてた。
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