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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
 大通りは、今日も賑わっている。

 着物のひともいれば、洋装のひともいる。軽装の男が走ってゆくのを後目に、大きな日傘にドレスの婦人が連れ立って歩いている。ひとりひとりを眺めると風変わりなふたりも、街の中に入ってしまうと目立たない。

 まるで巨大なサアカスだ。
 変わっていることが、普通になる。

 片目が隠れていると歩きにくい。たまに躓く陽色を、その度に西園寺の細い腕がすくい上げる。

 くすんだ墨色を風に揺らすと、やたらと派手な格好の露崎は、和装しかなかった時代の、色鮮やかな絵画に見えないでもない。そんな彼女は、何気ない口調で云った。

「ふたりして紅い衣装で、きょうだいみたい。理央お姉ちゃんと、陽色くん」
「ほんとに? おれ、ご主人さまみたいなお姉ちゃんならうれしい!」

 無邪気な笑顔の、無邪気なことばに、露崎は少しばかり面食らう。ええと、なんです、ご主人さま?

「……変わっているだろう、この子」
「ご主人さま、てのは」
「お父さんも、お母さんも、なあんか違うって思ったの。神さまや天女さまは、大仰すぎる、って怒られちゃったし。お嬢さまってのは、千遥、さん、と一緒になるの、なんだか、いやだったから」

 だから、あるじさま。ご主人さま!

 陽色のご主人さまは無言で息をつき、墨色の彼女は、そう、とやたらと真面目に呟いた。

「そう、そうですか。神さま、天女さま、」
「化け物」

 ほとんど聞き取れないほどの大きさで、西園寺はそうつぶやいた。知っているかね、鬼とは化け物とは、堕落した神の姿なのだよ。

 吐き出すような声色に、陽色は目を白黒させる。露崎が肩をすくめて、それでこの話は終わった。
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