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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 それが最初に姿を現したのは、師走の終わり。そろそろ年も跨ごうかという、街もひとも浮足立つころのこと。

 帝都に珍しく雪が降った、翌日の夜。その年最後の満月が紫色の雲の切れ間から煌々と下界を照らしていた。

 都を無尽に走る川のほとり、赤提灯を揺らして軒を並べる遊郭がある。不幸にして第一発見者となってしまった男は大店の跡取り息子で、その遊郭に住まう馴染みの女に会いに来ていた。

 その女とは遊郭の中でも一、二を争う見世の中で、更に一、二を競う花魁。つまりは高嶺の花も花、普通ならば幾ら大店の坊と云えどもおいそれとは会えぬ身分。

 どういうわけかこのふたり、一度座敷で目が合うたその日から、互いを運命と定めた、と、男は後にそう語る。

 さてその夜、男は手土産を携え、表向きはぶらりぶらりといかにも道楽ものの格好で女の待つ見世にやってきた。
 やってきたは良いが、見世がやけに騒がしい。そりゃあどんちゃん騒ぎにこと欠かぬ場所ではあるが、それにしても様子がおかしい。
 番頭を捕まえこれはいったい何の騒ぎかと問うと、女がひとり、いなくなったらしい。

 此処のいちばんの上玉、いちばんの売りものだった女でさあ。

 番頭の言葉に男は色めき立つ。それは、その女は今夜己が約束をした花魁に相違ない。

 赤提灯を片手に方々を探し回る男衆に混じって、男も女の名を呼んで歩いた。彼女の部屋からなくなっていた着物は、艶やかな朱の牡丹柄。男があつらえてやったものだった。
 夜を徹して捜索は続けられ、やがて闇夜の薄紫に明けるころ、女は見つかった。彼女をいっとう熱心に探していた男が、見つけた。

 男は川べりを、提灯片手に探していた。街の灯はとうに落ちている時分、己の提げた、薄ぼんやりとしたまあるい光だけが頼りだった。その光を右に、左に振り分けながら、時折女の名を呼ぶ。
 ふいに男はその光の端に何か、動くものを捉えた。
 捉えた、と、男は思った。反射的にそちらへからだを動かした。
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