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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
「私なら、たとえば藤堂直や、千遥みたいな、自分より強そうな相手は狙わない。女であるなら尚の事。君たちたちのような例外ならまだしも、一般的には、体格でも力でも足でも、女は男に敵わない。殺しそこねると分かっているなら、最初から狙わないだろう。少なくともおんなじくらいでなくては、殺し損ねるだろう……でも、そうだね、」

 陽色くらい華奢ならば、たとえ男でもやりやすいだろうね。

 細い手がまた、横から頬をぺたぺたとする。恐ろしいとも取れるひとことに、何故か恍惚として、陽色はその手に叩かれた頬を押し当てた。
 あどけない、子どものような笑み。露崎はほんの少しだけ、顔を引きつらせる。

「……陽色くん、何でうっとりしてんです」
「だから、この子、変わっているんだよ」

 罵倒されているともとれる言葉に、気付いているのか、いないのか。

 人形めいた顔を綻ばせたまま、陽色は柔らかく云った。

「子どもをぶつのも、大人をころすのも、あんまり変わらないの」
「変わらないね」

 間髪入れずに応じた西園寺の言葉に、一拍遅れて露崎も頷いた。

「そう、変わらないです」

 警邏の女は、一歩足をすすめるたび近づいてくる、古ぼけたビルヂングを見遣った。

 変わらないですよ。

 もう一度、今度は空気の中に融けてしまいそうな声で、そう云った。
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