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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
「そういえば、ご主人さま、どうして男のひとの格好をしているの」
何とも云えぬ空気をどうにかするため、陽色はふと、そう聞いた。
でも実際、それは、彼女と出会ってから、幾度となく思ったことだ。
このおひとは果たして、男であるのか、女であるのか。
昨晩、女であることは確認したが、彼女が彼女であるのなら、なおさら、今こうして、紳士の礼服を着ていることに説明がつかない。
幼い口調の問いかけに、西園寺は目をやった。ほんの少し、悲しそうな顔だった。
「……私は背が高いからね。ほら、並んで立つと、君よりも目線が上だろう。ドレスよりも、燕尾服の方が似合うから、男の格好をしているだけなのだよ」
「否定はしませんけれど、昨日の格好も似合ってましたよ。西洋人形みたいで」
「あれは千遥に呼ばれて思わず部屋着のまま飛び出してしまっただけなのだよ! 忘れたまえよ!」
羞恥か怒りかはわからぬが、顔が真赤に染まっている。
あのうつくしい姿が、時計塔の中でだけのものだと思うと、もったいないような、うれしいような、複雑な気分。しかし、己が西園寺のお人形であり、これからも彼女の傍にいられること、ひいてはあのきれいな姿をひとりじめできると考えれば、胸の奥に燻っていた何かが満たされて、自然、口角があがってしまう。
「うふふ、」
「……陽色くん、何でうれしそうなんです」
「……だからこの子、変わっているんだよ」
何とも云えぬ空気をどうにかするため、陽色はふと、そう聞いた。
でも実際、それは、彼女と出会ってから、幾度となく思ったことだ。
このおひとは果たして、男であるのか、女であるのか。
昨晩、女であることは確認したが、彼女が彼女であるのなら、なおさら、今こうして、紳士の礼服を着ていることに説明がつかない。
幼い口調の問いかけに、西園寺は目をやった。ほんの少し、悲しそうな顔だった。
「……私は背が高いからね。ほら、並んで立つと、君よりも目線が上だろう。ドレスよりも、燕尾服の方が似合うから、男の格好をしているだけなのだよ」
「否定はしませんけれど、昨日の格好も似合ってましたよ。西洋人形みたいで」
「あれは千遥に呼ばれて思わず部屋着のまま飛び出してしまっただけなのだよ! 忘れたまえよ!」
羞恥か怒りかはわからぬが、顔が真赤に染まっている。
あのうつくしい姿が、時計塔の中でだけのものだと思うと、もったいないような、うれしいような、複雑な気分。しかし、己が西園寺のお人形であり、これからも彼女の傍にいられること、ひいてはあのきれいな姿をひとりじめできると考えれば、胸の奥に燻っていた何かが満たされて、自然、口角があがってしまう。
「うふふ、」
「……陽色くん、何でうれしそうなんです」
「……だからこの子、変わっているんだよ」