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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
 話しているうちに、その建て物は、いつのまにやら、目前に迫っていた。

 入り口には、小さな女の子が立って客引きをしていた。

 牡丹色の振袖を振る度、鈴の音がりん、りん、と鳴って衆目を引き付ける。
 陽色がいなくなったかわりなのだろう、下駄と着物で踊る彼女の、髪は真白で、ひとみは薄い灰色。雪のあやかしであるような、氷の魔女であるような、あいらしいとも不気味ともつかぬ姿。白子、というらしい、女の子。

 りいん、りん。

 あの子はいつも、部屋の隅で蹲っていた子。真白くて珍しくて、どういうわけか、くちのきけない子。

 陽色はすり寄っていた西園寺の手から離れ、背中を伸ばした。

 帽子を深く被り直す。
 そうすると、離れた筈の手が伸びてきて、帽子の角度をちょいと直してくれた。眼帯と帽子とで、多少は印象が薄くなったひとみを、そうっと細めて微笑む。彼女は笑い返すことなく、客引きをしている少女の方に目を向けた。

 りいん、りん、りん。

 口上が述べられぬ代わりに、少女はしきりと上を指さす。つられて陽色は上を見る。見慣れた、朽ちかけた看板。

 文字は読めなくとも、意味は分かる。幾度となく、くちにした言葉だから。

「『心中サアカス』」
「……心中とはまた、よく云ったものだね」

 低く呟いた西園寺が、すたすたと入り口へもぐってゆく。それをみた露崎も、続いて入っていった。袖を揺らす少女の横を、陽色も慌ててすり抜ける。

 りいん。

 鈴の音が悲鳴のように聞こえて、陽色は、きゅ、西園寺の服の裾を握った。
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