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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
「さて、あとはあの団長だね。あれの控室に案内したまえ」
「ご主人さまは、やるときは、てっていてきに、やるの」
「入り口の子も、なかなかにあいらしかった。俗物の手で折角の素材が潰されるのは、我慢ならないからね」
「ふうん、」

 陽色はへらりと不器用に笑って、西園寺の手を取った。

 案内するよ。

 客席を出て、舞台裏へと歩いてゆく。芸人たちが詰め込まれている大部屋のすぐ近くに、二階へと上がる階段があるのだと説明しながら、陽色の足取りは迷いがない。

 華奢な手に手を引かれ、細い背中を見ながら進む。

 芸を仕事にするのなら、もう少し肉をつけなければ。
 きちんと歌って踊るには、相応の体力と筋肉の力が必要なのだ。一度ステエジを見ただけだが、それでもぞんざいに、力任せにやっていることはわかった。西園寺が知るよりずっと前から舞台に立っているのなら、変な癖がついているのやもしれぬ。歌いたい、踊りたいとこの子が望むのならば、容赦なく食べさせるし、それこそ徹底的に、教え込むのに。

 胸の底から、ぱちぱち、ぱちぱち、熱情が音を立てて湧き上がる。

 歌いたいのは、踊りたいのは。
 もう一度、あの場所に立ちたいのは。

 この件が片付いたらお人形用のドレスでも作ろうか、と西園寺は思う。思えども、やはりこの感情は消えやしない。

 孤独は友で、それはそれは長らく近しく寄り添ってくれていたのだけれども、今はその声が遠い。

 あまりに、遠いのだ。こんなことは、久方ぶりだ。

 ふいに、陽色が足を止めた。まだ階段も上がっておらぬというのに、どうしたのだろう。

 細い背中が、ふるふると震えた。小さな犬か、猫のように。

 彼の目の前には、背の高い青年が立っている。艶やかな衣装に身を包み、澄んだ両目はきらきらとうつくしい。淡く紅を塗った花びらのようなくちびるが、ふわりと開く。
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