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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
 ほんの少しの運命の掛け違いで、雨宮とリオの運命は、壊すものと壊されるものになってしまった。と云っても、リオは彼を恨むつもりはない。恨みたくは、ない。

「私ね、」
「うん」

 リオのくちから、云うつもりもなかったことが飛び出た。

「今まで何度も、色んな子に、訊いてきたのだよ、」

 私のお人形になる?

 あの時の口調をそっくりそのまま、レコオドで流したかのように。

 それなのに表情は、泣きそうに、歪められていた。

 だって、ひとりは、さみしいから。

 お母さまはお国に返ってしまった。
 お兄さまとお姉さまは、気がついたら遠いところに行ってしまっている。
 千遥は執事をやめて警察になって、私のことを陥れた。
 私は、ただ、ずっと、そばにいてくれる、お人形がほしかったのだよ。

「頷いてくれたのは、君だけだから、」

 続く言葉は音にならず、薄温かな衝撃に遮られた。
 抱きしめられている。気付いた時には、既に自らの手も彼の背に回っていた。

 おれは、あんたのお人形だよ。

 あどけない口調のその言葉に、ひどく安心する自分がいた。
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