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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
「ねえ、ご主人さま、あのね、たまにでいいから、歌って」
「……そんなふうに強請らなくったって、歌ってあげるよ」
「あと、かえったら、昨日の続き、していい」
「そんなふうに強請らなくたって、」

 今日は、やめてと云わないよ。

 己でも驚くほど逡巡はなく、気がついたらそれは音をなし、くちびるから飛び出す。昨日の続き、が意味するところは、いくら西園寺が貞淑な乙女であっても、わかる。だのに、何故だか嫌悪感はなく。

 かまわないよ、かまわないんだ、君なら、もう、何もかも。

 もう一度くちを開いて、何事かを言おうとした瞬間、陽色が、きらきらとひとみを輝かせて微笑んだ。

「ほんとに? うれしい」

 ぴかぴか、きらきら。

 真赤な宝石に、涙の膜が張ってある。眩しいほどに輝いているのは、どうやら目の錯覚ではないらしい。

 西園寺は、ああ、と頷いた。肯定のああ、なのか、感嘆のああ、なのか、己でもよくわからなかった。

 それでもひとつだけ、ようやく気づいた。

 己が求めていたのは彼だったのかもしれない、と。

 いくら歌っても、歌っても、むしろ歌えば歌うほど、遠ざかって、手に入らなかったもの。


 己をひたむきにあいしてくれるもの。
 そして自身も、心の底から安心して、身を任せ、あいすることができるもの。
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