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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
「私と、ひとつ、約束をしてくれ」

 窓の外はとうに夜闇に包まれ、淡い洋燈が仄かな明かりを落としている。寝台に埋めたからだが、どうにも熱を持っているらしい。

 西園寺にとってこの感覚は、全くもって馴染みのないもの、というわけではない。
 ひとつの公演を終えたあと、溢れんばかりの拍手、心酔、そういったものを一心に受け、全能感に満たされている、あの時と同じ。

 はてさてしかし、西園寺はこれから、自らより小さくてあいらしい子どもじみたお人形、に支配されるところ。

「な、な、な、なに、」

 存外ずっしりとした重みを感じながらも、からだが火照る程度で済んでいるのは、目の前にいる彼が、待てを強要されている犬のように、はふはふと息を荒げ、今すぐにでも目の前の少女を抱きたい衝動を、必死に堪えているのだと、容易に想像がつくからだ。

 経験回数で云えば陽色の方がずっと多いだろうに、西園寺より余程頬を上気させている。そんな姿を見て、かわいいね、などと思ってしまい、西園寺は我知らず興奮し熱に浮かされてしまっていると云う事実を知った。

「もし私が、万が一、ほんとうに、万が一、やめて、と云ってしまったら」
「やめる」

 陽色はすぐに答える。ひとみから、大粒の涙がこぼれおちた。やわらかな、あまいにおいのする肌の上に、ぽとぽと、ぽとぽと、水玉模様をつくりながら。西園寺は、ふ、と顔を綻ばせる。君、この短時間で随分涙もろくなったのだね。

「そうではないよ」
「へ、」
「もし私が、やめてと云っても、いやだと叫んでも、決してやめないで」

 ぱちぱち、赤が瞬く。

 うそ、と、存外低く、掠れた声があふれた。西園寺は陽色の頬を撫で、目を細めた。

「私は君に、触れてもらいたいと思っている」

 君は私に触れたくないのかね、陽色。

 彼は、首を横に振った。その仕草は駄々をこねる子どものようで、およそこれから情事にのぞむ少年であるようには見えぬ。

 見えぬけれども、陽彩が首を振るたびに、西園寺の中にある何かが、徐々に首を擡げてくるのを感じた。
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