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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
「おれ、ご主人さま、すき」
「……閨ではご主人さまというのはやめたまえよ」
「じゃあ、なんて呼べばいい」
陽色は殊更必死な顔で聞いてきた。西園寺は静かに、しかしはっきりと、云う。リオ。リオ、と、呼びたまえ。
「理央?」
「違う、リオ」
「リオ」
「ふむ、上出来」
きゅ。あまく締め付けられた心臓を誤魔化すように、居丈高に微笑む。
リオは、名前を呼ぶことは好き勝手させていても、発音まで強制することは、ただの一度もなかった。結果として、リオのことを、正しくリオ、と呼べるのは、名を与えてくれた母と、兄姉のみ。のみ、だった。ここに、もうひとり、加わった。
真黒い髪をゆっくりと撫でてやれば、陽色はあまえるようにすり寄ってきた。その顎をちょいと擦ると、手入れを怠った自動人形のような動きで、上を向く。リオは、彼のかたちのいいくちびるを、つうと撫でた。真赤なくちがぱっくりと開き、リオの人差し指を呑みこむ。
「……ふ、ぅ、」
「んん、」
ぴちゃ、ぴちゃ。わずかな水音に、鼻から抜けるような、あまい息が混ざった。普段は低くて艶やかな声が、甲高く掠れたようになる。ざらついた舌が指をなぞるたび、リオのからだ、彼に出会うまでは使う気などなかった部分が、じくじく、疼いて、熱を持つ。歯列をなぞれば、つん、八重歯にぶつかった。
つう。名残惜しそうに、くちびるがはなれた。唾液で濡れた指に嫌悪感は感じない。むしろ、それどころか。
「りお、きもち、?」
昨晩と同じように、陽色はそう尋ねた。かけられた言葉はさしてかわらぬのに、くちは何の言葉も紡ぐことができず。ただ、ちいさく、頷く。
訊いて、陽色はほんとうにうれしそうに笑った。
よかったあ、素直に云えて、えらいねぇ。
ゆったりとしたあどけない口調に、胎の奥が、きゅうと疼くのを感じた。
「……閨ではご主人さまというのはやめたまえよ」
「じゃあ、なんて呼べばいい」
陽色は殊更必死な顔で聞いてきた。西園寺は静かに、しかしはっきりと、云う。リオ。リオ、と、呼びたまえ。
「理央?」
「違う、リオ」
「リオ」
「ふむ、上出来」
きゅ。あまく締め付けられた心臓を誤魔化すように、居丈高に微笑む。
リオは、名前を呼ぶことは好き勝手させていても、発音まで強制することは、ただの一度もなかった。結果として、リオのことを、正しくリオ、と呼べるのは、名を与えてくれた母と、兄姉のみ。のみ、だった。ここに、もうひとり、加わった。
真黒い髪をゆっくりと撫でてやれば、陽色はあまえるようにすり寄ってきた。その顎をちょいと擦ると、手入れを怠った自動人形のような動きで、上を向く。リオは、彼のかたちのいいくちびるを、つうと撫でた。真赤なくちがぱっくりと開き、リオの人差し指を呑みこむ。
「……ふ、ぅ、」
「んん、」
ぴちゃ、ぴちゃ。わずかな水音に、鼻から抜けるような、あまい息が混ざった。普段は低くて艶やかな声が、甲高く掠れたようになる。ざらついた舌が指をなぞるたび、リオのからだ、彼に出会うまでは使う気などなかった部分が、じくじく、疼いて、熱を持つ。歯列をなぞれば、つん、八重歯にぶつかった。
つう。名残惜しそうに、くちびるがはなれた。唾液で濡れた指に嫌悪感は感じない。むしろ、それどころか。
「りお、きもち、?」
昨晩と同じように、陽色はそう尋ねた。かけられた言葉はさしてかわらぬのに、くちは何の言葉も紡ぐことができず。ただ、ちいさく、頷く。
訊いて、陽色はほんとうにうれしそうに笑った。
よかったあ、素直に云えて、えらいねぇ。
ゆったりとしたあどけない口調に、胎の奥が、きゅうと疼くのを感じた。