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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
 すみれ色に、透明な靄がかかる。

 ゆるり、視線が、上から、下へ。指をいれられたままの内側が、ゆるゆるとうねった。君、すこし萎えてしまったね。

「勃ってないとできないのだよね、私では興奮しなかったのかい、なんだか、ざんねん、」
「すぐしてほしかったの?」
「……君はほんとうにおしゃべりだよね」

 触れたい。

 云われて、陽色はやわらかなからだに倒れ込む。見たくれは陽色に似て華奢なのに、わけなく受け止められて、少しだけ、複雑な感情。

 熟れて濡れたくちびるで、やさしくくちづける。舌でつつけば、彼女はおずおずとくちを開けた。深く合わせ、からだから力を抜く。

 決して温かとは云えぬ体温。それでも、ずっとくっついていれば、触れ合った部分だけがやさしく熱を持ってゆく。

 花のように、あまいにおいがした。

 閉じた目蓋を、どうやら彼女の睫毛がさすったらしい。やわらかな感触。

「う、あ、」
「君、仔猫か赤ん坊みたいだね」

 にゃあにゃあ、あいらしく鳴いているのだね。親はどうしたの、はぐれたの。

 あんたが親だよ、と云わんばかりの表情は、見ないふり。額に張り付いた前髪を撫で、整えられていない襟足をくすぐってやり、浮き出た鎖骨とあばら骨をこつこつと叩く。

 生まれてこの方、性的な意味を持って何かに触れたことなど、なかったのだろう。愛撫、と云うよりは、まるで機械人形の調律のよう。指先で、くちびるで、五感全てを使って、細かく自分のものの全貌を把握しようとする。

「ん、ん、ひい、」
「ふうん、あばらと、腰骨だね。なあに、触れられると、きもちいいの」
「いらないことは覚えないでよう、」
「いらないものか」

 私は君のこと、ひとつ残さず、全部知りたいね。
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