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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第7章 終幕
「理央さま、」
「やあ、君は不作法しかできないのかね」
「……ぐうの音も出ません」

 なにせ毎度、先触れも出さず訪問しているわけなのだから、不作法であるに違いはないだろう。真黒い髪の人形も、なんであんたここにいるの、と云わんばかりの胡乱な目を向けてくる。

 見た限りでは、上等な服を着せてもらっていて、痣や傷らしいものもない。

 であればますます、時計塔の怨霊と呼ばれるそれの正体がわからぬ。露崎は首を傾げた。傾げたのを、西園寺は見逃さなかったようだ。

「で、今日はいったいどんな厄介事を持ってきたんだい」
「……ああ、いや、今回に関しては、厄介事と云うわけではないのですが、」
「君がその紺色の制服で、厄介事以外を持ってきたためしがあるかね」

 棘のある言葉だが、棘のある調子にならないのは、膝の上で、にゃんにゃん、ごろごろ、あまえている仔猫、坊や、お人形、のおかげだろう。艶のある黒髪、あいらしい顔にうれしそうな笑みを浮かべて、ご主人さまにすりよっている。

「……ぐうの音も出ませんが、ほんとうですよ、これ、」
「これは?」
「『しかばね新聞』です」
「ふむ、寄越したまえ」

 この子が膝の上にいるから、私は動けないのだよ。

 頷く姿を見て、露崎はほんの少し驚いた。てっきり、このような低俗なもの、と破り捨てるかと思ったのに、黒髪に添えた左手はそのまま、右手を露崎に伸ばしてくる。すこし考えたあと、その手にそっと紙束を握らせた。
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