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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第7章 終幕
陽色はあどけない笑顔を浮かべて、うん、黙ってる、と云わんばかりに首を縦に振った。存分に甘やかされる気でいるらしい。それを見届けてから、西園寺は視線を宙に彷徨わせ、考えた末に、露崎と目を合わせず云う。
「この子は夜泣きが酷くてね」
「なんと云いますか、ほんと、説得力はあるんですけど。理央さま、さては嘘をつくのは下手ですね」
「……ぐうの音も出ないね」
そうですよね、ほんとうに困ると、そうとしか云えませんよねえ。
陽色のおっとりにあてられたように、露崎までおっとりとした口調でそう云う。云って、立ち上がった。そのまま真鍮のノブに手をかけるものだから、西園寺は焦ったように呼び止める。
「ねえ、君、今日はもう行ってしまうの、」
「犯罪がないなら、陽色くんは虐められていませんでした、と報告すればいいだけですからね。あと、ここであんまり長々留まると、その分『あとで』が遠くなって、陽色くんに恨まれちゃいそうですからね」
「あんた、賢いね」
「賢いことがあるか」
西園寺はふんと鼻を鳴らし、両手できゅ、と毛布を引っ張ったようだった。それに抱き着いて、あいらしいお人形が、にゃんにゃん、ごろごろ。それをみて、露崎はため息を吐いてから、ノブを回す。閉まっていく扉の隙間から、自らの人形の頭を撫でている少女の姿が見えた。
「夜泣き、ねえ」
ほんとうに、説得力がある。黒い階段を下りながら、柔らかなすみれ色の毛布に埋もれ、黒くてふわふわな子どもを抱きしめて、背中を撫で、額にくちづけをして、子守唄をうたってあやしている金の薔薇。
「……うわ、ありそう……」
今度は茶々をいれてくれるひとはいないが、すごく想像できる、までちいさく呟いた。
どうやら時計塔の怨霊の正体は、黒髪のお人形の夜泣きだったようです。
あれが詭弁であるとは流石にわかっているが、大した事でもなさそうであるし、無理に聞き出すこともない。見えぬ事には、たかが一警邏には、暴こうにも、暴けぬ。
思いながら、煉瓦の道を踏んだ。昔馴染の上司に何と報告しようと、考えを巡らせながら。
「この子は夜泣きが酷くてね」
「なんと云いますか、ほんと、説得力はあるんですけど。理央さま、さては嘘をつくのは下手ですね」
「……ぐうの音も出ないね」
そうですよね、ほんとうに困ると、そうとしか云えませんよねえ。
陽色のおっとりにあてられたように、露崎までおっとりとした口調でそう云う。云って、立ち上がった。そのまま真鍮のノブに手をかけるものだから、西園寺は焦ったように呼び止める。
「ねえ、君、今日はもう行ってしまうの、」
「犯罪がないなら、陽色くんは虐められていませんでした、と報告すればいいだけですからね。あと、ここであんまり長々留まると、その分『あとで』が遠くなって、陽色くんに恨まれちゃいそうですからね」
「あんた、賢いね」
「賢いことがあるか」
西園寺はふんと鼻を鳴らし、両手できゅ、と毛布を引っ張ったようだった。それに抱き着いて、あいらしいお人形が、にゃんにゃん、ごろごろ。それをみて、露崎はため息を吐いてから、ノブを回す。閉まっていく扉の隙間から、自らの人形の頭を撫でている少女の姿が見えた。
「夜泣き、ねえ」
ほんとうに、説得力がある。黒い階段を下りながら、柔らかなすみれ色の毛布に埋もれ、黒くてふわふわな子どもを抱きしめて、背中を撫で、額にくちづけをして、子守唄をうたってあやしている金の薔薇。
「……うわ、ありそう……」
今度は茶々をいれてくれるひとはいないが、すごく想像できる、までちいさく呟いた。
どうやら時計塔の怨霊の正体は、黒髪のお人形の夜泣きだったようです。
あれが詭弁であるとは流石にわかっているが、大した事でもなさそうであるし、無理に聞き出すこともない。見えぬ事には、たかが一警邏には、暴こうにも、暴けぬ。
思いながら、煉瓦の道を踏んだ。昔馴染の上司に何と報告しようと、考えを巡らせながら。