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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第3章 やきなおし
「脱がせてあげるよ」

 からだを起こし、目の前にぺたりと座った子の部屋着に手をかける。ふわふわもこもこのぬいぐるみから、手入れの済んだお人形へ。やわらかくて愛らしいのも悪くないけれど、やはり球体関節のような膝や光沢のある肌もよい。

 彼はふっくらとしたくちびるに微笑みを浮かべて、おとなしくされるがままになる。下着一枚になるまですっかり脱がせた。

「今度はおれの番だよね、」

 細い指が、リオの胸元の釦にかかる。

 ひとに服を脱がせてもらうなど、ほんの赤ん坊のとき以来。なんて頼りなくて、無防備で、寄る辺のないことだろう。信じているひとでなくては任せられない。同時にどことなくあまえた気持ちが湧いてくる。なるほど厄介だ。相手が陽色でなければ、一生味わいたくはない。

 胸の内側が、どくどく、どくどく、強く脈打つ。この子は、決してあいらしい少女にも、かと云って艶めかしい娼婦にもなりきれぬこのからだを、一体全体どう思うだろう。どう触れるつもりだろう。この鼓動は不安だ。そして、期待だ。

 釦がすべてはずされる。ネグリジェの前が開いて、胸元から脚の先まで無防備に晒された。

 リオは俯けていた顔を上げ、彼の顔つきを見定めようと試みる。青白く、まだあいらしい子どもの面影を残した、うつくしい顔。

 彼の顔は、真剣だった。真剣そうに、見えた。紅いくちびるがふるふると幼気にふるえ、何か喋り出そうとする風情。

 次の瞬間。

 うつくしい男の子は、ひゃ! だか、ぴゃ! だか、よくわからない鳴き声を上げた。そのまま華奢なからだが寝台の上でバウンドし、頭から毛布に飛び込む。

 リオの目から、彼の姿が完全に消えた。代わりに淡い菫色のかたまりが、ぶるぶる、ぶるぶる、震えている。

「……え、ねえ、ちょっと、君、」
「だめ!」
「だ、だめ!? なんだね、どういうことだね、それは!?」

 困惑のあまりに舌がもつれる。菫色の毛布をぐいぐいと引いてみるけれど、こんなときに限ってびくともしない。

 その夜、とうとう彼が毛布の中から出てくることはついぞなかった。
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