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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第3章 やきなおし
「んっふふふふ、げほっ」
「え、まやちゃん今笑った! 笑ったでしょ!」
「待って待って笑うなという方が無理があるわよ陽色、げほげほっ」

 先に金魚が泳いでいる水羊羹のささった楊枝を持ったまま咽る親友に、陽色は慌てて水を差しだした。うつくしい形とうつくしい色をしたくちびるを僅かに歪めて、彼女は水を存外豪快に飲み下す。

「はあ、ふふ、ごめんなさいね」
「いいけど……、あ、その口紅、見たことない。新しいの?」
「ああ、わかる?」

 新作よ。この前団長に買ってもらったのだけど、そのまま貰ったの。

 鮮やかな紅色にほんの少し黒を混ぜたような色は、どちらかと云えば精悍なはずの顔にやたらよく似合っている。こんな夜更けに呼び出されたというのに、昼間に会うのと同じかそれ以上の輝きだ。非常にまばゆい。

 それに引き換え己のぼろぼろ加減はどうしたことだろう。いっそこのまばゆさの前で灰になって風にさらさら飛ばされたい。

「はああ、あうう、ふああ」
「あの可愛い陽色にこんな顔させるなんて、相変わらずよねえ」

 陽色が頼んでいた煎餅をひとつつまみあげながら、彼女の口調はますます気楽。ほとんど歌い出しそうな風情。
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