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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第4章 びやくしょや(なおくんとあかりちゃん)
 そうしてしばらくふたりして茶を飲んでいた。会話はないが、何を云わなくとも構わないこの感覚は、心地がよい。
 しかし、いくら胃の腑を冷やしても、身の内の熱は静まらぬ。それどころか、酒も飲んでいないのに、酔ったようにぼうっとしてきた。

「熱……」
「本当に……今日は熱いな。酷く苦しい」
「ええ。流行病でしょうか」
「そう云う話は聞かない」

 藤堂は小さく息を吐いて、所在なさげに立ち上がった。既に中身を飲み干していたらしい茶碗を持って、厨に向かう。どうやって引いているのか分からない水道に添え付けられた木桶に、乱暴にそれを放り込むと、彼はしばらくその場から動かなかった。

 それをみやりながら、明莉は紅い茶をそうっと飲み干した。火照るからだに、ひんやりとした冷たさは心地よいが、すぐにぼうと掻き消えてしまう。腹の奥底から、何か溶岩のようなものが湧き上がってくる。

「……ところで露崎、」
「明莉です」
「つゆさ、」
「明莉」
「……明莉、寝所はどうする」

 数度昔馴染みの名前で呼ぶように要求すれば、直は観念したようにそう云った。明莉は「なんだか昔みたいです」とくちもとを綻ばせる。

「昔とは。露崎の家に泊まったことも、貴様が藤堂の家に泊まったこともない」
「えへ。ちがいますよう。昔は今よりもっとなかよしだったなあ、って」
「……そうだったか、」
「ええ。さすがに夜は泊まったことがないけれど、いっしょにお昼寝はしましたよ」
「そんな記憶はないが」
「ええ、直くん、すぐ寝ちゃうんだもの。わたし、もうすこしお話してたかったのに、ちょっとおふとんでくるんだら、ぐっすりだったんれすよ、」

 だんだん何を話しているのかわからなくなってきた。酒精はからだに入れていないはずなのですけれども。なんだか頭がぼうっとする。露崎はやたら重く感じる前髪をかきあげ、額に手を当てた。特別熱くは感じないが、それだけ額も手も熱いと云うことなのかもしれない。
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