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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第6章 ありあ
 時計塔が帝都のど真ん中にあるとは云え、その中にひとが住んでいると知るのはひと握りであるし、そもそも滅多なことでは外に音は漏れない。その滅多なことが起きたから、亡霊と間違えられたなんて云われてしまうのだが。それでも朝から歌っていようが、それこそこの男の云うように喘ぎ泣き喚こうが、誰が咎めにくることがないと云うのは事実だ。もしかしたら聞こえているのかもしれないが、それこそ亡霊と間違えられて終わりである。

 もしかしたら本当に、この時計塔には亡霊が住んでいるのかもしれない。リオは不意に思った。金色の髪と紫色のひとみをした、少女の亡霊。

 布とレエスの真ん中で座り込んでいるリオをとっくりと眺めてから、彼は立ち上がった。骨の浮いた脚で軽やかに絨毯を踏み締め、あっという間に近付いてくる。

「ご主人さま、いつもは女帝さまみたいなのに、今はお姫さまみたい」
「……冗談は休み休み云いたまえよ」
「冗談じゃないよ」
 かわいい。

 薄い肩を揺らして、陽色はくすくすと笑う。同衾した翌朝は、常の自信のなさが少し、なりを潜めるらしい。酷く彩度の高い紅色の眼球が、余計にきらきらして見える。

 小さな膝頭を布の間に埋めるようにして、陽色は跪いた。伸ばされた両手を掬うようにして繋いでやると、頬にくちづけが降ってくる。花びらにとまる蝶々のようにやさしい感触。殆ど温度も感じられない。間近で見る鮮やかな色のひとみは、白い光に照らされて湖水のように潤んでいる。思わず覗きこんで見入ってしまう。うつくしいものを、リオは熱心にあいしている。

「じいっと見られたら、くすぐったいよ」

 囁きに、肌が粟立った。

 皮膚の内側に染み入る声。ひとたび歌い出せば、軋むほど強く歪で悲しくあいらしく、忘れがたい傷を残す声だ。

 痩せっぽちの、ぎすぎすした、不気味な人形。少女の顔と青年のからだを持った歪なマリオネット。幾らからだに近付けて、肌を寄せても、うまく掴めないでいる。それがやけに悲しい気がする。

「ひいろ、」
「うん」

 返事をしてくれるくちびるに、そうっと頬を寄せる。心得たように一度くちづけて、陽色は腕を引いてきた。

「ねえ、リオ、」
 もういっかいかわいがって。

 柔らかな声色で子どものように誘われる。子どもの遊びを引き受ける気持ちで、仕方がないね、リオは立ち上がった。
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