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あおい風 あかい風
第2章 キス
 この前まで 会話らしいものもなく 遠くからみているだけだった人の背中が 今は 目の前に広がっている。
 少しの汗とけむたいような匂いがする背中。大きくて硬くて 大好きな人の背中。乗り心地の悪い自転車の荷台のせいで いくらでもしがみつける。

 さっきまで キスしてた。
 抱きしめられた。
 愛撫も受けた。
 こわいくらいの急展開だ。

 でも 大事に思っているのだと 大輝は伝えようとしてくれた。それなら このまま進んでもいいような気がする。手にあまるくらい の出来事が続くのかもしれない。未知の世界だもの。それを思うと 不安になる。
 大輝のひたむきな目。無表情なんかじゃあない。いっぱい、いっぱい気持ちのこめられたあの目で見つめてくれるのだから こわくな い、と言い聞かせる。
 ここから引き返したら すばらしい時間をうしなってしまう。
 大輝の背中に 「その角を右」「次の通りは 左」とか言いながら考えた。

 明日 考えよう。

 本当に 家の前まで送ってくれた。
 長身の大輝には 赤い自転車は小さすぎるようだ。それがおかしくて 少し笑った。

 「ここから 帰れますか?」
 「楽勝」

 離れがたい気持ちで 自転車のそばに立っていると ぼそっと 「今度の土曜日 うちにこない?」
 大輝は下を向いている。

 心臓を ぎゅっと掴まれた気分。
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