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Memory of Night 2
第12章 夜のお散歩

「可愛いワンちゃんですね。柴犬ですか?」
「ええ、そうなんです。ありがとうございます」
(あー、ばかっ)

 確かに焦げ茶の犬はとても可愛かったが、おもちゃを入れっぱなしの宵の状況からしたら話している場合ではないのに。

「お名前、なんていうんですか?」
「ナナです」
「女の子なんですね。全然吠えないんですねー」
「そうなんすよー。うちの犬おとなしいんすよ」

 そのまま雑談に発展しそうで、宵は焦った。
 早く切り上げて帰りたい。けれどもし中のおもちゃの存在に気付かれたら、と思うと、迂闊に言葉を発することもできない。

(つか、絶対わざとだろ)

 何歳ですか、とか、家近いんですか、とか、犬から離れた質問までがんがんしている晃に、確信する。
 どう見たって、晃自ら話を広げているのだから、宵への嫌がらせに違いなかった。
 飼い主の男性も、飼い犬が褒められて嬉しいのか、上機嫌で晃の問いかけに応じてしまうからなお悪かった。
 ずっと続く快感の波に、だんだんと頭がぼーっとしてくる。
 すでに晃と若い男性の話の内容は頭に入ってこなくなっていた。
 次の瞬間だった。

「あ……や……っ」

 急にまた振動が強くなった。
 宵は堪えられず、その場でまたしゃがみこんだ。

「え、だ……大丈夫すか?」

 若い男性は慌てて自分もかがみ込み、宵の肩に触れようとした。
 それをそっと自分の体を割り込ませて晃が阻止する。

「すみません、実はこの子ちょっと熱っぽくて。夏風邪かな」
「あ、最近気温差ありますしね。具合悪いのに足止めさせちゃってすみません。お大事にしてください」

 丁寧に頭を下げ、男性とナナは去っていく。

「お気をつけて」

 晃も笑顔で手を振った。
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