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Memory of Night 2
第29章 桃華

 宵が物心ついた頃から、母の桃華はほとんど家に居なかった。平日は特に、父秋広と過ごす時間の方が圧倒的に多かった。
 理由は二人の職種にある。桃華は建築関係の仕事だったため、仕事場も数ヵ月を目処に変わる。遠い場所だと日が上る前に家を出ることもあった。当然帰りも遅く、起きている桃華とほとんど会えない時もあった。
 それに比べて秋広はいつも家にいた。桃華が働く会社の元締めの会社で人事を担当しており、ほぼ残業はなかったようだ。桃華との出会いもそこだったのだという。
 いつか秋広が話してくれたことがあった。

「普段面接に来るのはいかついお兄さんばっかりだから、ママが来た時はびっくりしたよ。面接の場所間違えたのかと」
「めんせつ?」
「んーと、この会社でお仕事させてくださいって、言いにくること。ママと初めて会ったのは、その面接だったんだ。ーーそこで出会ってなかったら、ママと結婚してないかもしれないし、宵も産まれてなかったかもしれないんだよ。運命かな。宵もそう思う?」
「……んー……うん」

 正直なところ、『面接』や『運命』など、幼かった宵には意味がよくわからなかったが、いつも幸せそうに桃華の話をする秋広が好きだった。
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