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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱
春加は波打つペットボトルの光を見つめ、尋ねた。
「ーーなんで戻ってきたんだよ? アメリアを連れて、洞穴の外に逃げたんじゃないのか……」
「あんたがそれ、言う?」
宵は呆れたように灰色の瞳を細めた。
轟音と共に春加の頭上も崩れた時、真横から強い衝撃があった。あれは宵だった。上部が崩れる寸前、穴の中に戻ってきて春加の体を洞穴の奥に弾き飛ばしたのだ。
そうされなかったら、今頃土砂の下で死んでいた。
「だから聞いてんだよ。なんであのまま……」
ーー死なせてくれなかったの?
喉元まで出かかった言葉を、春加はどうにか呑み込んだ。あまりに身勝手で、高校生の子供に問うにはあまりに残酷な気がしたからだ。
「『あのまま』、なんだよ?」
続きを促され、春加は光るペットボトルを見つめたまま黙った。
「あんたこそ、なんでここから逃げなかったの? 何度も呼んだだろ? 洞穴から出ろって」
問いかけてくる声色は、思いの外柔らかかった。春加を責めているような口ぶりではない。それでも春加は顔をあげられなかった。
真正面から宵の顔を見るのが、なぜだか酷く怖かった。
「ま、いーや。そんだけ喋れるなら大丈夫だろ。……ちょっと穴掘るから、あんたはそのまま休んでろよ」
「……穴? 壁に? 馬鹿なの?」