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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱
春加はウィンドブレーカーのポケットを探り、煙草とライターを手に取った。起き抜けの、いつもの習慣。
一本咥えジッポの蓋を開けると、ぎょっとしたように宵が声を荒げた。
「あー、馬鹿はどっちだ、ここで煙草なんか吸ったら……っ」
慌てて立ち上がり、痛みに顔を歪める。左足を引きずるようにして春加にかけより今にも火が点りそうなジッポの蓋を無理矢理閉めた。
手に持っていた煙草は箱ごと奪われ、目の前でぐしゃりと潰されてしまう。続いて、咥えていた分も同じように奪われ、折られた。
「……まだ開けたばっかだったのに」
「ここから出たらいくらだって買ってやるよ……。だから今はやめろ」
宵は盛大にため息をついた。
「洞穴に閉じ込められてる今の状況、わかるだろ? こんな場所で煙充満させんなよ。火も燃える時に酸素を消費するし、すぐ酸欠になっちまう。アルコールランプの実験とか覚えてねーの?」
「……そんなの昔過ぎて忘れた」
「あ、そ。とにかく煙草はしばらく我慢しろ」
春加はずっと地面を見ていた。やがてぽつりと、呟いた。
「ーーどうせもう、あたし達は助からない。それ、アメリアが肩にかけてたバッグだろ?」