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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱
宵が先ほど穴を掘っていた場所にある小さなバッグを春加は指差す。
「車のキーと財布だけ、あの人いつもそこに入れてる。それに、ペットボトルの下のスマホもアメリアのじゃないの?」
「……うん、そーだよ。散々歩きまわったけど、やっぱどこも圏外だった。電波なくて外には連絡できねーや。だけどライトだけは使えたから、アメリア先生の借りた。指紋認証しないと開かねーからライトくらいしか使えねーし、万が一電波入ったら俺ので助けを呼べるかなと思って、アメリア先生のスマホから先に使わせてもらった」
自分の意識がない間、宵はここから出る方法を必死に考えて行動を起こしてくれていたらしかった。
だったらなおさら、今がどれほど絶望的な状況なのかもわかるはずだ。
「スマホも車のキーも洞穴の中で、アメリアは歩いて屋敷まで戻るしかない。途中民家もないし、助けを呼べるのはいつになるか。あたし達がここに来る話も亮や土方さんにしてないし、おまえも晃に言ってないだろ? アメリアが戻るまで誰も気付かない。自力でここから出るのも不可能。そんな簡単に土壁に穴開けられるわけないだろ? ……助けが来る前に死ぬよ」
口にすると、余計に現実味を帯びる気がした。もってあと数時間。死が間近に迫ってきている今の状況でも、不思議と春加の心は冷静だった。