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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第1章 1皿目
「ねぇ。あれ、なに?」
さっきまで粘りつくような甘い声色から一点、怒気を含むくぐもった声に変わり、私は「えっ?」と漏らし洲が指差す先を見て、背筋が凍る。
目の前にはあんなことになる前に必死に隠そうとしていた、牛肉焼殺事件の犯行現場が、事件当時そのままの形で残されており、犯人の間抜けぶりを存分にさらけ出していた。
洲をお風呂に誘導し、入っている隙にすぐに片付けるつもりだったのに、あんなことがあったからすっかり忘れていた。いつもの程度であれば大目に見てくれるけど、今日は一歩間違えれば家が焼けていたかもしれなかったのが、水に浸かる黒焦げの肉と床に散乱する瓶の欠片、フルーティーな香りを撒き散らす琥珀色の液体によって隠しきれていなかった。甘い一時へと誘うはずの夫の暖かい手が、現行犯を逮捕する刑事の冷たい手錠に変わっていく気がする。
「聞いてる? なんだこれはって聞いてるんだよ?」
「え…あ…そ、その、良いお肉、あったから…焼こうと…して」
「ふーん。サプライズがどうのとか言ってたのはこれのことか。この前作らなくてもいいんじゃないって、言ったばかりだったと思うけど」
明らかに怒気を込めた洲の声色に、私は冷えきった身体をカタカタと震わせて、じっとりとした嫌な汗で体を濡らしていく。別に暴力を振るわれそうだから恐怖を抱いている訳じゃない。洲はしてくれない人だったけど、DVをするような人じゃない。私が恐れているのは、こんな日常茶飯事の激化程度のことで、折角の夢の一時が無惨にも終わってしまうのではないかということだった。
洲だけじゃない。アシスタントの瀨尾君にさえ余計なことはするなと釘を刺されていたのに、目の前の惨状がまたそれをしたということを、如実に表していた。ロマンチックな一夜にしようと画策したものが、目的が達成した今となっては、もはや蛇足にしか見えず、今になって二人の忠告が骨身に染みて、『なんてことしてんだ私!!』と自分を強く責める。
さっきまで粘りつくような甘い声色から一点、怒気を含むくぐもった声に変わり、私は「えっ?」と漏らし洲が指差す先を見て、背筋が凍る。
目の前にはあんなことになる前に必死に隠そうとしていた、牛肉焼殺事件の犯行現場が、事件当時そのままの形で残されており、犯人の間抜けぶりを存分にさらけ出していた。
洲をお風呂に誘導し、入っている隙にすぐに片付けるつもりだったのに、あんなことがあったからすっかり忘れていた。いつもの程度であれば大目に見てくれるけど、今日は一歩間違えれば家が焼けていたかもしれなかったのが、水に浸かる黒焦げの肉と床に散乱する瓶の欠片、フルーティーな香りを撒き散らす琥珀色の液体によって隠しきれていなかった。甘い一時へと誘うはずの夫の暖かい手が、現行犯を逮捕する刑事の冷たい手錠に変わっていく気がする。
「聞いてる? なんだこれはって聞いてるんだよ?」
「え…あ…そ、その、良いお肉、あったから…焼こうと…して」
「ふーん。サプライズがどうのとか言ってたのはこれのことか。この前作らなくてもいいんじゃないって、言ったばかりだったと思うけど」
明らかに怒気を込めた洲の声色に、私は冷えきった身体をカタカタと震わせて、じっとりとした嫌な汗で体を濡らしていく。別に暴力を振るわれそうだから恐怖を抱いている訳じゃない。洲はしてくれない人だったけど、DVをするような人じゃない。私が恐れているのは、こんな日常茶飯事の激化程度のことで、折角の夢の一時が無惨にも終わってしまうのではないかということだった。
洲だけじゃない。アシスタントの瀨尾君にさえ余計なことはするなと釘を刺されていたのに、目の前の惨状がまたそれをしたということを、如実に表していた。ロマンチックな一夜にしようと画策したものが、目的が達成した今となっては、もはや蛇足にしか見えず、今になって二人の忠告が骨身に染みて、『なんてことしてんだ私!!』と自分を強く責める。