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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第1章 1皿目
「うえぇえぇ!! ごめんなさぁあぁ!!」

「ちゃんと『ん』まで喋る!! 幼稚っぽいんだから…一体いくつ食材ダメにしたら気が済むんだよ。どうせまた気合いだとか言って火加減はおろかレシピすら見ずに作ったんだろ?」

「さすがダーリン、よくお分かりで。ひっ!?」

 洲がデコピンの構えをするのと同時に頭部を守る体制に入る。いつものことなので反射神経が磨かれたのか、いつの間にか打ち付けられる前に絶対防御の体勢を取れるようになった。だけど防御ばかり磨いても慎重さを伴うことは無く、持ち前の大胆さが災いして料理の腕は一向に上がることは無かった。

「はぁ…だいぶ焦げ付いているけど、食えない訳じゃなさそうだ。折角作ってもらって捨てるのはなんだし、食べようか。夕飯食べてきたけど入らない訳じゃないし」

 作って欲しいと頼んでもいない汚コゲを、洲はフライパンから皿に移す。白いお皿の中央に悪目立ちする暗黒物質が置かれ、その上をパラパラと死の灰がアクセントとして降り注ぐ。きっと生姜ダレだったものだろう。これでもかって程にみじん切りにしたし。

「ぐすっ…ごめんなさい…お腹、入るの?」

「『元』生姜焼きでしょ? カツみたいに肉厚くないし、これ位お腹に入るよ」

 失敗ばかりする私に呆れながらも、精一杯のフォローしてくれる優しい夫。そんな夫に私は不躾にも薄暗い感情を抱いてしまう。

 厚みの無い安い肉を使ってて悪かったわね…
 お腹入る程度にしか食べないんだったら、外食しないで早く帰ってきてよ…
 大体何回部長やら課長やらに呼び出されるの? それこの前も同じこと言ってたの気付かないの…

 一度付いたボヤは心の奥底に溜め込んでいた淀みあるオイルで益々火力を高め、内に秘めたる卑屈さが膨らんでいく。顔に出ていたのか、はたまた自分の発言の裏の意味に気付いたのか、洲は何かに怖じ気付いて「その、ごめん…いただきます」と言って産廃物一歩手前の肉片を口に入れる。
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