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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第2章 2皿目
 今やパソコンで描く時代とはいえ、ひたすらGペンをカリカリと紙に打ち付けることだけは変わらないこの道を志してから今日に至るまで、毎度思う所がある。

 目の前には容姿性格共にイケメンな好青年と、こんな可愛い奴いるかってツッコミたくなる女子が、紙面の向こう側の存在など気に止めることもなくアレやコレしてイチャついている。この数ヶ月前は大手ゼネコンのスパダリ社長と、負い目のある人生を生きる社長秘書が、形は違えど同じ土俵で同じことをしていた。その前もそのまた前もキャラクターと手法を変えただけでやることは一緒だった。

 このような華々しい二次元物語がこの国には溢れている。それこそ彼らのイチャつきだけで軽く一国を沈められる程に、その世界は愛で溢れているのだ。

 なのに現実は彼らの世界よりも男女数が圧倒的に多いはずなのに、皆あまり代わり映えのしない恋愛人生を送っているし、そもそも送ることすらできない人達もまた多数である。だからこの手の空想漫画の需要は絶えないのだ。

「…せい」

 仮初めでもいいからこんなラブストーリーの中で生きたい…そんな世間の渇きに応えることで、私は漫画家という一表現者として社会での存在を許されている。現実は売れない漫画家だけど、私が紡ぎだす物語が何十億人の内の誰か一人の心を満たしているのであれば、私は誰かにとって需要のある必要な人間なのだ。

「…せい?」

 だから私は今日も頭の中の物語を黒線の集合体として形にしていく。空想の現実を求める人達のために、自分の人生じゃないくせにあたかも真実であるかのように嘘の世界を描いていく。それが漫画家として生きる者の宿命だと信じて。

 名作漫画が次世代の漫画家を紡ぐ様に、華やかな嘘が、新鮮な虚構を産み出す。
 嘘を欲する誰かに応えるために、現実という都合の悪い物が入り込まないように、私は身も心も嘘で塗り固め、吐き出す。

 人生、後にも先にも嘘だらけ。
 そんな毎日が、ペンを握り続ける限り生涯続くのだろう…と思っていた。

 思っていた…のに…

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