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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第2章 2皿目
「聞こえてますぅ!? せぇーんせっ!?」

 耳元で大声を出された私は、ハッとなって思わず顔を挙げる。すっかり考え事に耽っていたのが、目の前の瀨尾君の不機嫌そうな顔から察する。

「あ…えっ…」

「あもえもないですよ、まったく…渡された原稿一式、全部終わりましたよ。次のネーム待ちなんですけど、できてるんですか?」

 突き刺さる視線に怯えるように、私はデスクに視線を落とす。目の前には中途半端に仕上がったネームの数々…誰が見ても手を動かしていないのは明白だった。凍てつく溜め息を漏らす瀨尾君とは対照的に、恥ずかしさと情けなさで私の顔は摂氏100度以上の熱を帯び始める。

「はぁ…まったく。仕事無いんだったらもう帰りますよ? こっちも仕事来るのをボケーと待つ程暇じゃないんで。暇な時間も給料出してくれるっていうなら少しは考えますけど」

 瀨尾君はうだつの上がらない雇い主に対してビジネスライクな言葉を投げ掛ける。言葉の節々にトゲを感じるも、当然のことだと自分に言い聞かせる。

 仕事がないということは報酬が発生しない。報酬を出せないということは、一人の時間を繋ぎ止めることはできないということになる。瀨尾君に何と言われようと、今の私には言い返す権利がない。

「ごめん…今日、なんか調子出なくて…今日は上がっていいよ。給料は…オマケしといてあげるから」

 いつも頑張ってくれている瀨尾君を、こちら都合でタダで帰すのは忍びない。私は雇い主としてできる限りの対応をしようと瀨尾君に接するも、瀨尾君はさらに一際大きな溜め息をついて、私の提案に見当違いだと不服を漏らす。
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