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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第2章 2皿目
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「あ。ちょっと待って瀨尾君」
微妙な空気のまま日が暮れていき、筆が一向に進みそうにない今日はもう引き上げようと決めた私は、帰宅しようとする彼を呼び止めて、座り続けで重く固まった腰を上げる。ぎっくり腰とはまた違った痛さに一瞬顔をしかめるも、私は平静を装って瀨尾君の元へと歩を進める。
売れない漫画家である今の私には、締切間近の案件はない。徹夜するまでもない今の状況で、彼を遅くまで引き留めることなどしなくていいもだが、弟子の面倒を見る者としてやらなければいけないことがある。
「なんです先生? もう帰る所なんですけど」
「そんな嫌そうな顔しないの…まぁ、今日は私のせいだけど…新人賞の作品の進捗はどんな感じ? 添削してあげるから、見せてちょうだい?」
新人賞。その単語はNGだと言わんばかりに、瀨尾君は苦虫を噛み潰したような顔をする。瀨尾君が不機嫌なのはいつものことだが、今の顔はそれとは別次元の不機嫌さだ。
「…断固拒否します」
「ダメよ。独りよがりの作品で勝てる程、甘い世界じゃないことはよく知ってるでしょう? 必ず読者目線のチェックを入れることって、受ける前に約束したでしょ? 期限も近いんだから…ほら」
反抗的な彼の気持ちも分からないでもない。私もアシスタント時代は同じことを師匠に言われ、同じように反抗していたのは今でも憶えている。
食い扶持を稼ぎながら睡眠時間を削り、日夜ボロボロになりながら描き上げる私だけの物語。そんな必死の想いで描いた作品を、賞を取るためだという言い訳を盾に、やれここがおかしいだの数々の指摘を受ける。
本人のためとはいえ、疲れきった心身にとってはそのどれもが誹謗中傷に聞こえてしまい、それが積み重なっては精神を蝕んで筆に出る…このストレスに耐えられなければデビューなんて到底不可能と頭では分かりつつも、期限間近になると思わずその面を殴りたくなる衝動に駆られてしまう。事実、私はそうやって盗作するつもりなんだろうと師匠と大喧嘩になったことがある。
今となって良い想い出だけど。
あれが無かったら今の私は無く、今の私が無ければ瀨尾君も違う人生を歩んでいたかもしれない。
「あ。ちょっと待って瀨尾君」
微妙な空気のまま日が暮れていき、筆が一向に進みそうにない今日はもう引き上げようと決めた私は、帰宅しようとする彼を呼び止めて、座り続けで重く固まった腰を上げる。ぎっくり腰とはまた違った痛さに一瞬顔をしかめるも、私は平静を装って瀨尾君の元へと歩を進める。
売れない漫画家である今の私には、締切間近の案件はない。徹夜するまでもない今の状況で、彼を遅くまで引き留めることなどしなくていいもだが、弟子の面倒を見る者としてやらなければいけないことがある。
「なんです先生? もう帰る所なんですけど」
「そんな嫌そうな顔しないの…まぁ、今日は私のせいだけど…新人賞の作品の進捗はどんな感じ? 添削してあげるから、見せてちょうだい?」
新人賞。その単語はNGだと言わんばかりに、瀨尾君は苦虫を噛み潰したような顔をする。瀨尾君が不機嫌なのはいつものことだが、今の顔はそれとは別次元の不機嫌さだ。
「…断固拒否します」
「ダメよ。独りよがりの作品で勝てる程、甘い世界じゃないことはよく知ってるでしょう? 必ず読者目線のチェックを入れることって、受ける前に約束したでしょ? 期限も近いんだから…ほら」
反抗的な彼の気持ちも分からないでもない。私もアシスタント時代は同じことを師匠に言われ、同じように反抗していたのは今でも憶えている。
食い扶持を稼ぎながら睡眠時間を削り、日夜ボロボロになりながら描き上げる私だけの物語。そんな必死の想いで描いた作品を、賞を取るためだという言い訳を盾に、やれここがおかしいだの数々の指摘を受ける。
本人のためとはいえ、疲れきった心身にとってはそのどれもが誹謗中傷に聞こえてしまい、それが積み重なっては精神を蝕んで筆に出る…このストレスに耐えられなければデビューなんて到底不可能と頭では分かりつつも、期限間近になると思わずその面を殴りたくなる衝動に駆られてしまう。事実、私はそうやって盗作するつもりなんだろうと師匠と大喧嘩になったことがある。
今となって良い想い出だけど。
あれが無かったら今の私は無く、今の私が無ければ瀨尾君も違う人生を歩んでいたかもしれない。