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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第2章 2皿目
「あむ…ぺちゃ…へぁ…」

 ならこれを食えと言いたいのか、神様は相変わらず何かぼそぼそ言いながら、私の口にぷにぷにした何かを捩じ込んでくる。それは火傷しそうな程にとても熱く、身体が思わずびっくりしてどくんと大きく跳ねる。でもそれは最初だけで、温かい甘露を舌の先っぽや表面に塗りたくられる度に、身体がポカポカしてきて心地よくなっていく。

 この熱い吐息。私を慈しむ舌の触れ合い。
 今、分かった。否、思い出した。
 この人は、神様なんかじゃない。そんな遥か遠い存在じゃなくて、もっと身近で、もっと暖かくて、私という生き物…人間の証を動かしてくれる、大切な、大切な人…

「あ…あぁ…しゅ…う?」

 どくん、どくんと高鳴る心音と共に、ふわふわと宙に浮いていた体が急に重力を思い出したかのようにすとんと下に落ちていく。宇宙船が燃えながら落ちていく様な高まる熱を感じながら、私はいつの間にか地上まで着いてしまい、これまたいつの間にか生えていた脚で着地していた。目の前には私の帰りを待ってくれていた洲が、少し感極まったような涙を浮かべながら微笑んでいる。

「…おかえり。しおり。よく、頑張ったね…最高に…可愛かったよ…宇宙の旅は楽しかったかい?」

 地球人の代表面をして対話を試みる洲に対し、私は何か言わなくちゃと口を開き…そのまま床に崩れ落ちる。長い宇宙旅行の果てに足腰が退化してしまったのか、脚の支えが重力に抗えない。おまけに辺りにぽつぽつとできている水溜まりに足を滑らせたのも相まって、私は盛大に尻餅を付いた痛みに顔を歪ませる。

 反射的に閉じた瞼でさえも眩しく見える、フローリングの上で光る水溜まりの数々。水溢れる青い惑星があると聞いたことがあるけど、まさかしがない一般人である私がこの眼で体感することになろうとは想像もしなかった。

 でも、この水の惑星には生命が無かった。
 木だった物は今更恵みの雨を受けても芽吹くことはなく、水溜まりができたからといって魚が住むなんてことも無く、水浴びにくる鳥すらいない。そう。二畳にも満たない私達がいるこの場所は、生命が全く無い寂しい星なのだ。

 ここにいるのは、洲と私…男と女が一匹ずつ。
 アダムとイブ…イザナギとイザナミ…偉大なる人類史上最古のカップルと同じ立ち位置になった私達。


 何をすべきかなんて、言わなくても明らかだった。
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