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Eat me 完熟媚肉と秘蜜のレシピ
第2章 2皿目
「むへ…」

 温もりが消え去り、ぞわぞわと寒さが肌に突き刺さる私に、洲は両手を頬にあてがい、ふいに指で口角を三日月の様な弧の形に引っ張る。あまりに突然のことで変な声が出てしまい、それが面白かったのか洲は突然くっくっと笑い出す。

「栞。ほら、スマイルスマイル。泣き虫な栞も可愛いけど、やっぱり笑顔の栞の方が断然可愛いよ。ほら1+1は?」

 楽観的な小学生みたいにバカっぽく『にー』と言わせたいのだろうけど、生憎こちらは放心状態の悲しみにくれる大人なのだ。出てくるのは陽気な掛け声じゃなくて、理解不能による不信と不安の涙だった。

「正解、よくできました。答えはツーでしたぁ…はぁ。栞。気持ちはわかるけど、いっぱしのレディがそんなに泣いちゃダメだよ。折角の美人が台無しだよ?」

「だって…洲、なにも答えてくれないじゃない。質問に答えてよ。答えてくれるまで泣くの止めないから」

 罰が悪そうに少し伏し目がちになる洲に、私は呆然自失となりながらも返答を迫る。面倒くさい女だと思われても構わない。だって洲は卑怯だ。あの手この手で私の疑問に答えるのを明らかに避けている。いくらあなたの妻だからって、あんなキス程度で…都合の良い女にしようとする洗脳なんかに、私は屈したりなんかしない。


「この意地っ張り」

 くぐもった声で不意に呟くから、思わず「え?」っと声に出してしまい聞き返す。だけど洲はそんな狐に包まれる私のことなど意にも介さず、ダイニングテーブルの方にスタスタと歩き出すと紙袋をがさがさと漁りだし、ニコニコ顔で何かを引っ掴んで戻ってくる。

 左手には何かを握っているであろう拳。
 右手にはキラリと刃を光らせるハサミ。
 そして一連の流れには明らかにそぐわない、不気味な程ににこやかな洲の表情…下半身は相変わらずその形を崩すことなく、屹立したまま。

 誰がどう見ても危険人物にしか見えず、肌の寒気と共に芯から凍り付き背筋が縮こまる。ウザイ女だと思われて、そのハサミでズタズタにされるのではないか。やっぱり洲はDVの気質があって、私はその地雷を踏んでしまったのだろうか。あらゆる凄惨なシーンが脳内を瞬く間に駆け巡り、命の危機に震えが止まらなくなる。
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