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Kiss Again
第8章 夜の時間

 「どうして バレエ やめたの?」

 「やめた、というか。 他に 自分に合う踊りを みつけた、というか」

 思い出をたぐりよせながら 愛美が言う。



 「自分の感情を 踊りで表現するの。 それに合わせて 音楽をアレンジしたり」



 ”自分の感情を表現する”と、いうのが なんか愛美にそぐわないような気がするけど。 それは 愛美のおれの知らない部分なんだろうな。



 高校のときの愛美は 人が話すのを やわらかく笑いながら聞いている、そんな印象だった。 自分を主張するようなタイプにはみえなかった。

 『スターダスト』でも 職場の人たちの中で 聞き役のような存在にみえた。



 「たとえば 自由、を踊るとしたら ある人は鳥になったり ある人は風を表現してみせたり」

 「愛美の 自由、って どんなかんじなの?」



 愛美は 互い違いに両手のひらを合わせ まっすぐに頭の上に伸ばし ゆっくり身体を折って 足先へとぴったりくっつけた。

 愛美の部屋で見た ドガの踊り子のポーズに とても似ている。

 ベッドに腰掛け しなやかに二つ折りになった愛美。 

 「どうして それが自由なの?」
 「次は どんなポーズでもできるでしょう?」

 愛美の自由は 次は 何でも選べる、ということなんだ。
 じゃあ 今は それを手に入れた?


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