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Kiss Again
第10章 スターダストにて
 
 奥の団体から 「仲村 おっせぇよぉ」 「こっち こっち」のような声が上がった。

 マスターが 眉を上げたのは そーゆーことか、とわかった。

 愛美は おれ達に軽く頭を下げると コートを脱ぎながら 奥へと向かった。



 そのとき
 コートを脱ぐ愛美から あの匂いがした。

 愛美の部屋で クローゼットから取り出した”かい”の服のハンガーをはずす時にさんざんかいだ あの匂い。



 ”かい”が使う トワレの匂い。



 嗅覚の記憶は 人間の記憶力の中で 最も曖昧らしい。
 でも こんなこと 間違わない。 ”かい”の匂いだ。



 そういうことか。

 胸の中に 一瞬で空洞ができたのを感じた。


 そっ、かぁ・・・


 ゴミ袋をふくらまして 硬い表情で 次々に男の物を入れた愛美。

 山下公園で おれを振り返りながら歩いた愛美。

 駅の改札で 小さく手をふり 唇を「ばいばい」と動かした愛美。



 そうなんだ。

 ”かい”のところに もどったんだ。

 想像していたこととはいえ 受け入れるのには 時間が必要かもしれない。


 水割りを ひと息で飲み干した。
 「ここ にぎやかだから 場所をかえる?」


 夏見のグラスも 空になっていた。

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