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蒼い月光
第11章 三つ巴の交わり

台所に差し掛かった時に、
千代は一兵卒に目を止めた。

男はやせ細り、顔の色艶が悪かった。


「八重、あの者は?‥‥」

「ああ、兵吉にございます。
体が小さく、戦に向かぬゆえ
鬼食い番(毒味役)を勤めておりまする」

なるほど、毎食の度に
毒が盛られているやもしれぬものを食すのだから
そのストレスたるものは尋常ではなかろう。

「これ、兵吉と申す者‥」

声を掛けてきた美人が
奥方さまだと八重に教えられて
兵吉はかしこまった。


「鬼食い番、大義でございましょ?」

「と、とんでもございません‥
拙者は武術に不向きゆえ、
せめて鬼食い番として
殿様の力になれれば本望でございます」

「そなたがいるおかげで
私たちは安心して食することができるのです。
これからも殿の為に尽力をお願いいたします」

そう言って兵吉の手を握り頭を下げた。

兵吉は、いたって感激した。

兵吉のみならず、
汚い仕事や辛い仕事の役目の者たちに
言葉をかけて頭を下げる姫君を
家臣たちはたちまち千代を信奉した。


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