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Kiss Again and Again
第12章 旅愁
「滝を見に行こう」
観光ガイドを見ながら 樹さん。
「あゆちゃんの靴 長く歩いても平気? 結構歩き回るかも」
「はい。 沢山歩くつもりの靴です」
温泉地だったら 川や山や自然がいっぱいあると期待して 準備してきた。
果物やお土産物を並べているお店の駐車場に車を停めて 「おばちゃん 帰りに買い物するから 車おかせてください」 人なつっこく旧知の間柄のように 樹さんが言う。
そこからは歩いた。
滝までの道のりの途中に 空を突き刺すような杉の林道がある。
陰のところを歩くと 急に空気がひんやりする。
「樹さんは どうして舞台 やめちゃったんですか? 樹さんのような人は 舞台映えしたでしょう? 声だって素晴らしいし」
陽のあたるところは 暖炉のそばにいるように温かい。
「すごくえげつないけど 聞きたい?」
「えげつない、って?」
「やぁーな話だってこと」
太平洋の海原のようなこの人に 「えげつない」昔があるなんて 考えられないけど。 人は生きていれば 色々あるのよね。
「無理に聞きたいわけじゃあ・・・」
「別に 隠すようなことじゃあないけど」
舗装されていない道は ゆっくりしか 歩けない。