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Kiss Again and Again
第17章 別れのとき
「車で来てるから 送っていくよ」
まさかっ
そんなこと 絶対 しないっ
「それは いいので。 ごめんなさい。 肩をお借りしてしまって」
「何かしようと思っているわけじゃあないよ。 ただ 心配なだけ」
そう・・・ この人って 優しいふりが 上手だった。
「今の時間だと 通勤帰りのラッシュだよ。 こんなあゆを 混んだ電車に乗せられない」
もう? そんな時間?
どれだけ ここに座っていたのだろう。
帰ろう。 誰もいない部屋に。 樹さんのいない世界に 帰ろう。
そして 眠ろう。
樹さんのいない日常をおくるために 目醒めよう。
椅子から立ち上がると よろけた。 立っていられなくて また座り込んだ。
「送って 行かせて。 それだけだから」
ひとりで歩けない。 大事な支えを失ったばかりで ひとりで立つことすらできない。
悲しみは 判断力を鈍らせる。
「ここで待ってて。 すぐに車をとって来るから」
言いなりだった。
支えてもらわなくては歩くことさえできない。 その不甲斐なさと悲しみの大きさに 更に打ちのめされる。 そして 何も考えることができない。
言われた通りに バスレーンの隣の舗道にしゃがみこんで 車をつけてもらうのを待った。
海は 車を寄せると わたしを立たせ 助手席に乗せた。 シートベルトまで締めてくれた。 嗅ぎなれた海のトワレが ふわっと漂った。
なんだか惨めで 新しい涙が また溢れた。
大きなカーブを二度曲がったことまでしか憶えていない。
窓から オレンジと赤い2本の絵筆で荒々しく塗ったような夕焼けが見えた。
フランスは どっちだろう、と思った。
「あゆ・・・ 幽霊みたい・・・」
眠ってしまった。