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朱になる
第1章 運命の出会い
深夜バスというのに 初めて乗った。
珍しく遅くまで 友人の愚痴に付き合ったせいで ほどほど以上の酒量になった。
慎二は 酒は強い方だったが 酔うほどは飲まない。酒はたしなむもの、と決めていた。だから 今日のような状態で 電車を二度も乗り換えるのは億劫だった。
話としては知っていたが こんなところから自分の住いの近くまで バスが通っているとは知らなかった。
意外に高額だったが タクシーよりは安い。
後部の窓際の二人がけの席に座った。
座るやいなや とろりとしてしまったらしい。自分の席の近くに 荷物を持った女性が立っていた。
二人掛けの席を独り占めしていることに気がつき
「あ、すいません」
と腰をずらして 一人分を空けた。
「ありがとうございます」
背中が ぞくり、とした。
座った女性は 持っていた小さ目のボストンバッグを膝に乗せることができて ほっとした様子だった。
窓の外を見るふりをして 暗いガラスに映る隣の席の女性を観察した。ぼんやりとしてよくわからないが あの時 青山のレストランで出会った、あの声の持ち主のような気がする。
こんな偶然があるものだろうか。
どうにか胸のラインを見ることができれば 確められるのに。あんな飛び出すような胸は めったにお目にかかれないはずだ。
少し視線をずらせば 張りつめたような太腿は見えるが 酔っているとはいえ 隣に座りながら 胸をじろじろ観ることははばかられる。