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鬼の花嫁
第1章 プロローグ
そして、その生贄という役目を李蘭に果たさせようとしている理由を知り、ああ、と思った。李蘭は、絶望の淵に追いやられた心地になる。
幼い頃から、父も母も口をつけば姉や妹のことばかりだった。それは今回も同じだ。姉や妹では無く、李蘭の身を売るつもりなのだろう。李蘭が病を持って生まれたと知ったその日から、両親はこうして都合の悪いことは必ず李蘭に押し付けた。
「……あの鬼様の、贄になれということですか」
「そうだ」
李蘭の訴えにも近い嘆きは、父のたった一言で簡単に押し潰されてしまう。
(どうして、私がこんな目に遭わなくてはならないの……?)
生まれた時から宿痾に犯された脆弱な身体のせいで、駒にされ挙句贄に選ばれるだなんて、なんて不運なのだろう。
己の悲惨な人生を嘆いても仕方がない。病を持って生まれたその時から、李蘭の人生は道を踏み外していたのだ。何せ、幼子の時から悪鬼が取り憑いていると責められ、政略の駒にもなれない落ち零れには、鬼の贄に差し出されることでしか存在価値を認めてなど貰えないのだから。
「分かってくれ、李蘭。これはお前にしか頼めん」
久方ぶりに父から名前を呼ばれて、李蘭は驚きに目を見開いた。
一体どのような顔で娘の名を呼び、懇願しているのだろう。
複雑な靄を胸に抱きながら父を見上げると、そこには無様に許しを乞うなんとも見苦しい彼の姿が目に映る。これが本来の父の姿なのだと知ってしまえば、李蘭は落胆せずにはいられなかった。