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マッスルとマシュマロ
第20章 生い立ち
宏樹は、あの、琴美が去った日に、心の柔らかい部分に蓋をしたのだ。
あの時、琴美が去って、ぼんやりしている自分に、母が一通の封書を差し出した。
宏樹の母としては、もう中学生にもなるのだし、甘える相手がいなくてもいいだろうと思っていた。
これからは一人で強く生きてもらいたいと、息子に敢えて、今、話そうと決めた。
そして話し出す。
「そこに、あなたの父親からの手紙が入っているわ。」
小さな頃、なぜうちには父親がいないのか、と聞いたことがあった。
母は、学生時代に宏樹を産んで、その人とは別れたのだ、と教えてくれた。
もちろん、親が別れる友人や、母親だけに育てられている友人もいたので、それはあることだともわかっていたが、そんな友人たちでも、父親のことは知っていたし、たまには会うという人がほとんどだった。
しかし、宏樹は一度も父に会ったことがない。