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マッスルとマシュマロ
第47章 心を柔らかくするもの
それにしても、と、宏樹を見ながら、夏菜子は思っていた。
宏樹の雰囲気が、あまりにも2ヶ月前とは変わっていた。
キリリとした眉も、通った鼻筋も、切れ長な目を縁取るような長くて濃いまつ毛も、そしてその鍛え上げられた筋肉の美しい曲線も、そのままの端正な宏樹だったが、雰囲気が違うのだ。
夏菜子は打ち合わせ用のテーブルに宏樹を座らせ、コーヒーをマグカップにふたつ注ぐと、一つを宏樹に、もう一つを自分の前に置いて、ゆっくりと座った。
宏樹は、夏菜子が腰を下ろしたのを確認すると、軽く頭を下げ、ここしばらくの不在への詫びをつげた。
「しばらく、連絡もしないで・・・すみませんでした。・・・もう一つの・・・ジムの仕事が立て込んで・・・」
自分のスケジュール管理もきちんとしていて、話をするときには明瞭な伝え方をする、いつもの宏樹とは、明らかに違う言い訳だった。
夏菜子は、宏樹をじっと見ながら、静かな口調で言う。
「そう・・・。まあ、わかっているとは思うけれど・・・春の学会に向けて、そろそろここまでのデータをまとめる必要があるから。」
宏樹は、この2ヶ月がまるで夢の中にいたような気がしている。
あの人と出会ったのは、まだ夏の終わりだったのに・・・気がつけば秋が深まっている・・・。