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性神がこの世に放った獣たち~起
第2章 車内
「少し派手じゃないか?」
ハンドルを握っている私は、前方を向いたまま妻にそう言った。
「あなた焼きもち焼いているの?」
スマホのゲームに夢中になっている妻も私に目をくれることはなかった。妻はタイトなブルーのワンピースに、白のサマーカーディガンを羽織っている。きつく締め付けられているせいか、妻の大きな胸は、そのせいで強調されている。ほんの少しだけ谷間も窺える。
「焼きもち? 何だよそれ?」
「出がけの時、お隣のご主人が私を見て言ったでしょ。覚えてないの?」
「ああ、あれか」
「ねぇ、言ってみてよ」
「何を?」
「お隣のご主人が私に言った言葉」
「馬鹿馬鹿しい」
「ほら、焼きもち焼いているじゃない」
「お世辞だよ」
「わかっているわよ。でも嬉しいじゃない。そういうとこ、あなたにはないわよね」
「あんな歯の浮くようなことが言えるかよ」
「変わらないわね、あなたって」
妻が吐き捨てるようにそう言った。『奥様いつまでもお若くてお美しい』隣人はそう言ったのだ。確かに私の妻は誰からも若く見られる。週三で通うジムをさぼったことはないし、スリムな体を維持するため食事も摂生している。二十代に見える、というのは若干無理があるが、妻が冗談で三十後半の年齢を言ったとしても疑う人間はいないだろう。
「音楽止めてくれないか」
「えっ?」
スマホに目を落としている妻は、一度も私に目を寄こさない。韓流ドラマとKpopにはまっている妻は、家だけでなくメルセデスの中でもKpopを流す。
「せめてクラッシックにしてくれないか?」
「クラッシック!」
妻は驚いた顔を私に向けた。
「モーツァルトとかブラームスとか」
「止めてよ。あなたって本当におじさんね」
「おじさんしかクラッシックを聴かないという考えが古いんだよ」
「あー面倒くさい。あなたと議論なんかしたくないわ」
「……」
二十五年間私と妻はこんな風に暮らしている。
「あっそうだ、あなた来月九州の大学に講演で行くでしょ」
「ああ」
「私も行くから」
「九州?」
「もちろんよ」
「何しに?」
「旅行に決まってるでしょ。あなた一人なんてずるいわよ」
「おいおい、僕は旅行に行くんじゃないぞ」
「わかっているわ。あなたは仕事で私は旅行、それでいいでしょ?」
「勝手にしろ」
「ええ 勝手にします」
ハンドルを握っている私は、前方を向いたまま妻にそう言った。
「あなた焼きもち焼いているの?」
スマホのゲームに夢中になっている妻も私に目をくれることはなかった。妻はタイトなブルーのワンピースに、白のサマーカーディガンを羽織っている。きつく締め付けられているせいか、妻の大きな胸は、そのせいで強調されている。ほんの少しだけ谷間も窺える。
「焼きもち? 何だよそれ?」
「出がけの時、お隣のご主人が私を見て言ったでしょ。覚えてないの?」
「ああ、あれか」
「ねぇ、言ってみてよ」
「何を?」
「お隣のご主人が私に言った言葉」
「馬鹿馬鹿しい」
「ほら、焼きもち焼いているじゃない」
「お世辞だよ」
「わかっているわよ。でも嬉しいじゃない。そういうとこ、あなたにはないわよね」
「あんな歯の浮くようなことが言えるかよ」
「変わらないわね、あなたって」
妻が吐き捨てるようにそう言った。『奥様いつまでもお若くてお美しい』隣人はそう言ったのだ。確かに私の妻は誰からも若く見られる。週三で通うジムをさぼったことはないし、スリムな体を維持するため食事も摂生している。二十代に見える、というのは若干無理があるが、妻が冗談で三十後半の年齢を言ったとしても疑う人間はいないだろう。
「音楽止めてくれないか」
「えっ?」
スマホに目を落としている妻は、一度も私に目を寄こさない。韓流ドラマとKpopにはまっている妻は、家だけでなくメルセデスの中でもKpopを流す。
「せめてクラッシックにしてくれないか?」
「クラッシック!」
妻は驚いた顔を私に向けた。
「モーツァルトとかブラームスとか」
「止めてよ。あなたって本当におじさんね」
「おじさんしかクラッシックを聴かないという考えが古いんだよ」
「あー面倒くさい。あなたと議論なんかしたくないわ」
「……」
二十五年間私と妻はこんな風に暮らしている。
「あっそうだ、あなた来月九州の大学に講演で行くでしょ」
「ああ」
「私も行くから」
「九州?」
「もちろんよ」
「何しに?」
「旅行に決まってるでしょ。あなた一人なんてずるいわよ」
「おいおい、僕は旅行に行くんじゃないぞ」
「わかっているわ。あなたは仕事で私は旅行、それでいいでしょ?」
「勝手にしろ」
「ええ 勝手にします」