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性神がこの世に放った獣たち~起
第3章 その夜
車から降りると、妻は両手を上げ、大きく一つ伸びをしてから、ミルクティブラウンに染めたセミロングの髪を首を振ってなびかせた。
「ああ疲れた。あなたって本当に運転が下手ね。ベンツが可哀そう」
人に運転をさせておいてその言い草は何だ! という言葉を私は飲み込んだ。腹を立てることが馬鹿馬鹿しい。
「おい、自分のバックくらい持って行けよ」
バーキンを翳して妻に言ったが、妻は無言で玄関に向かっていった。軽〇沢に来ても妻はいつもの妻だった。
夕食前、妻が風呂に入る。これから一時間、私に与えられた至福の時。ターンテーブルにビルエヴァンスを置いて針を落とす。リビングのソファに身を預けて、グレンリベット十五年をロックで飲む。目を瞑り大きく深呼吸すると、醜いストレスが、私から逃げ出して森の中へ消えていった。
夕食を済ますと、妻はテレビで韓流ドラマを見始めた。風呂に向かう私に向かって妻は「あなた烏の行水はやめてよ。しっかり体を洗ってね。加齢臭をまき散らしている教授の奥さんなんて御免ですからね」そう言った。要するに私の妻は自分の事しか考えていないのだ。そんな妻に私は「それじゃあ君は、一時間お風呂で何をしているんだ?」と問いかけたかったが、もちろんそんなことが私に言えるはずがない。
午後十時、私と妻はいつもより早く床についた。
ここで少し、別荘のセキュリティについて話しておく。この別荘があるエリアは、この地区を開発した業者の管理事務所が三百六十五日二十四時間体制で住民の生活を守っている。そのせいかどうかはわからないが、この地区で犯罪が起こったことなど一度もなく、またそういう話を耳にしたことがない。もちろん? 住民同士のトラブルなんかも聞いたためしがない。
何かあれば管理事務所に直通の電話回線も引かれているし、月に一度、別荘の庭の手入れと清掃する業者が出入りするので、ホームセキュリティーは設置していなかった。
安全安心はいつも確保されている。その慢心は、いつしか安全安心に対しての無関心に変わっていった。安全を意識すらしなくなっていたのだ。
安全が崩壊する時は、得てしてそういう時に起こる。
その夜、我が家は崩壊した。
「ああ疲れた。あなたって本当に運転が下手ね。ベンツが可哀そう」
人に運転をさせておいてその言い草は何だ! という言葉を私は飲み込んだ。腹を立てることが馬鹿馬鹿しい。
「おい、自分のバックくらい持って行けよ」
バーキンを翳して妻に言ったが、妻は無言で玄関に向かっていった。軽〇沢に来ても妻はいつもの妻だった。
夕食前、妻が風呂に入る。これから一時間、私に与えられた至福の時。ターンテーブルにビルエヴァンスを置いて針を落とす。リビングのソファに身を預けて、グレンリベット十五年をロックで飲む。目を瞑り大きく深呼吸すると、醜いストレスが、私から逃げ出して森の中へ消えていった。
夕食を済ますと、妻はテレビで韓流ドラマを見始めた。風呂に向かう私に向かって妻は「あなた烏の行水はやめてよ。しっかり体を洗ってね。加齢臭をまき散らしている教授の奥さんなんて御免ですからね」そう言った。要するに私の妻は自分の事しか考えていないのだ。そんな妻に私は「それじゃあ君は、一時間お風呂で何をしているんだ?」と問いかけたかったが、もちろんそんなことが私に言えるはずがない。
午後十時、私と妻はいつもより早く床についた。
ここで少し、別荘のセキュリティについて話しておく。この別荘があるエリアは、この地区を開発した業者の管理事務所が三百六十五日二十四時間体制で住民の生活を守っている。そのせいかどうかはわからないが、この地区で犯罪が起こったことなど一度もなく、またそういう話を耳にしたことがない。もちろん? 住民同士のトラブルなんかも聞いたためしがない。
何かあれば管理事務所に直通の電話回線も引かれているし、月に一度、別荘の庭の手入れと清掃する業者が出入りするので、ホームセキュリティーは設置していなかった。
安全安心はいつも確保されている。その慢心は、いつしか安全安心に対しての無関心に変わっていった。安全を意識すらしなくなっていたのだ。
安全が崩壊する時は、得てしてそういう時に起こる。
その夜、我が家は崩壊した。