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北の軍服を着た天使
第3章 Episode 3
「今日は、居るのかな。」
ドアの前で、そう小さく呟いてから意味も無く口紅を塗り直す私。まるで恋する乙女みたいだ、と自分に苦笑いを浮かべそうになるが、私のキム・テヒョンに対する気持ちは、今の所、恋とか愛とかそういった物では無い。
でも……決して嫌われたくない人である事も間違いなかった。
ロレアルの口紅をそのままバッグに放り込んでから、インターホンを鳴らそうとしたその時…タイミング良く扉が開いては、スーツを着た二人の男性にぶつかった。
「痛っ…」
思い切り油断していた為、あまりの勢いに尻餅を付きそうになるが、グッと手を伸ばし私の腕を引っ張ってくれたキム・テヒョンのお陰で危機一髪で立て直した。
「…大丈夫ですか?」
今まで見た事の無い位の優しい笑顔でテヒョンにそう言われた私は、即座にこれが彼の演技だと理解する。
「あ、ハイ。すみません…!」
「李さん。取引先の方がお見えになりましたよ。」
非常に柔らかい口調で、とても流暢な日本語で、そして優しい笑顔で。
まるで取って付けたかの様な演技を見せられて、呆気に取られた。
「では、ここで。」
「はい。ありがとうございました。」
キム・テヒョンが深々とスーツの中年の男性達にお辞儀をすると、その男性も頭を下げてからエレベーターへの足早に乗り込む。廊下には私とキム・テヒョンと、そして中から様子を見に来た李さんの三人だけになった。
「あっ…あの…」
「社長から聞いてます。中へどうぞ。」
「は、はい」
一歩室内へ下がったキム・テヒョンは、死角になっている事を確認してから、何も喋るな、と云う様に細くて白い人差し指を自らの唇の前へ持っていく。
私も何となく状況を察して素早く室内へ入り、ドアを閉めた。