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想い人
第3章 それぞれの想い人
「うわっ、何そのひどい顔!」

寝不足な上に泣き腫らした目の私を見た彩華先輩が笑い転げる。

「なかなか戻ってこないと思ったら、まぁた透也先輩と何かあったんた?」

ひとしきり笑った後、彩華先輩がメイク道具片手に近付く。


「……魔法みたい……」

彩華先輩の手によって、私の目の周りの酷い有り様が隠されていく。
ボソッと呟けば、彩華先輩は可笑しそうに笑った。


「本人にちゃんと聞いた?」

見上げれば、心配そうな顔をした航先輩。

私はゆっくりと首を横に振る。

「聞けなかったんだ?」

「……信じる事にしたんです」

だって、疑えばキリがない。
涙も止まらないし、ずっと胸が苦しい。

それなら信じていた方がずっと楽だ。

”違う”
”何かの間違い”
そう思い込める魔法があったらいいのに……。


「そっか……」
俯いた私の頭を優しく撫でる航先輩。

……調子狂うな。
航先輩が優しいなんて……。

心がホカホカと温かくなると同時に、心臓が少し忙しくなった。

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