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恋する妻
第8章 秘密のやり取り
「メッセージ来てる…見ていい?」
郁は僕の言葉に、無言で頷きました。新着を示す数字が出ているメールアプリを立ち上げると、そこには僕を含むいくつかのIDが並んでいました。その一番上に「パン屋の弟」と名前のついたアイコンがありました。

「郁、これ?」
「…うん、そう」
郁は不安そうな顔をして、僕を見ました。しかし、視線を合わせてはくれません。僕はいったんスマホを置き、郁の方に向き直りました。郁はまだ、不安を隠しきれません。

「大丈夫だよ、郁」
僕は郁を優しく抱きしめました。郁も覚悟を決めたように、不安げながら僕に微笑んでくれました。僕は郁の不安を和らげるため、郁に飲もうかと言いました。素直に頷くと、郁は裸のままキッチンに行きました。そしてウイスキーとグラスをひとつ、持ってきました。

郁がベッドに戻ると、僕たちは上半身だけ起こし、ベッドに並んで横たわりました。そしてグラス一杯のウイスキーを、ふたりで一気に呑み干しました。一瞬で身体が火照り、何かが弾けました。僕はさらにサイドテーブルにあるウイスキーを、瓶のまま一口含みました。郁を抱き寄せると、口移しにウイスキーを飲ませました。郁は最後の一滴まで、僕の唾液と一緒に呑み干しました。郁の身体は熱く、その目は潤んでいました。そのままスマホを手に取ると、郁は僕に画面を見せました。

「これ?」
「うん、悠だよ…」
いつもの口調に戻って、郁が説明してくれました。悠のスマホでは、郁の名前が「パン屋の姉」になっているはずです。

「あたしたち、パン屋姉弟って言われてた」
「…仲がいいから?」
「最初はそうだった…だから、そのアイコン写真も店長が撮ってくれたの」
丸いアイコンをタップすると、大きな写真が現れました。そこに、お店で見た悠が写っていました。バストアップの写真は、誰かと腕を組んでいます。トリミングされ人物はわかりませんが、悠の腕に白く華奢な腕が絡み合っていました。

「これ、郁?」
「うん、そうだよ…」
ふたりはベーカリーで噂をされていました。最初は仲の良い姉弟でしたが、今はもう違います。

「今は…パン屋夫婦って、言われてる」
「夫婦?」
「うん。あたしと悠がセックスしてること、みんな知ってる…」
「みんな知ってるの?」
それは周囲の人間にも、はっきりわかるほどでした。

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